ブラシレスモーター:巻線端子OFF区間の波形、還流ダイオードと電源電流
2023.03.30
続いて、「ブラシレスモーター駆動の実際の信号波形」の3つ目の説明です。この波形には2つのポイントがあります。最初に「巻線端子OFF区間の波形」について説明します。
ブラシレスモーター駆動の実際の信号波形
- ①U電流はなぜこのような波形になるのか
▶巻線電流と誘起電圧 - ②UH、ULの信号と波形は分かるが、拡大してみるとUHはパルス状(ON/OFFの繰り返し)になっている。
▶パルス状の印加電圧 - ③U電圧(U相巻線端子電圧)は、UHがパルス状の部分ではUHに合わせてパルス状となり、ULがONしている部分ではGND電位となるのは分かるが、UHとULがOFFの間の斜めの波形は何なのか?
▶巻線端子OFF区間の波形
▶還流ダイオード - ④電源電流とは何を表しているのか? この電流もパルス状になっている。
▶電源電流
この現象や波形などに関しては、「ブラシレスモーター駆動の実際の信号波形」で再度確認してください。
ブラシレスモーター:巻線端子OFF区間の波形
「巻線端子OFF区間の波形」とは、各相で上と下のトランジスタが両方ともOFFしている時に巻線端子に現れる波形を意味しています。この状態を、開放状態、オープン状態、Hi-Z(ハイジー、ハイインピーダンス)などと呼んでいます。ここでは、「オープン」を使います。
左側の図の破線で示したタイミングでは、U相がオープンで、V相電圧はPWM電圧印加状態、W相はLo固定になっています。この時のV相およびW相の巻線端子電圧は、スイッチ(トランジスタ)によって電気的に電源電圧やGndに固定されているので、右側の図のような波形になっています。

U相はオープン状態なので図中の中性点を基準とした波形が現れます。中性点は、V相端子電圧とW相端子電圧の分圧値になります。V相とW相の両方のZ・I(電圧)はおおむね同じ値となりますが、V相とW相の誘起電圧の大きさに違いがあるため、中性点電圧は図のような傾きを持ったパルス状の波形になります。さらに、この中性点電圧にU相誘起電圧が重畳するので、U端子電圧は図のような波形となります。これが、120度通電で上と下のトランジスタがOFFしている(オープン状態)相の巻線端子に現れる波形です。
モーター制御において、この「誘起電圧が含まれた波形が見える現象」には使用価値があります。OFF区間(オープン状態)の巻線端子電圧は、前述のように中性点電圧に誘起電圧が付加された波形なので、中性点を基準に巻線端子電圧を測ることでその相の誘起電圧を検出できます。
先の「ブラシレスモーターにおける誘起電圧発生の原理」で、誘起電圧はコイルの位置とロータ(永久磁石)の相対位置から決まってくると説明しました。これは逆に誘起電圧からロータ位置を推定できることを意味します。
ホール素子などの検出素子を使わずに、この原理を用いてロータ位置を把握する方法は、センサレス制御と呼ばれ広く普及しています(ロータ位置の検出がモーター制御において重要であることは既述)。ちなみに、このセンサレスのセンサとはホール素子などの磁極検出器もしくはエンコーダなどのロータ位置検出器のことであり、誘起電圧を検出するためのセンサは必要です。
ところで、図の波形の中で気になる部分があります。誘起電圧が見えているU端子電圧波形が、不自然にある値より下がらなくなっているのが見受けられます。その現象の理由を説明します。
ブラシレスモーター:還流ダイオード
オシロスコープなどで巻線端子電圧を確認すると、図に示した波形のように、Gnd電圧より少し下がったところでそれ以上は電圧が低下しない波形になっているのが分かります。結論から先に言いますと、これはパワートランジスタと並列に還流ダイオードと呼ばれるダイオードが存在しているからです(最下部の回路図参照)。

このダイオードがあるため、巻線端子がGnd電位-ダイオードの順方向電圧(Vf)以上に下がろうとしても、ダイオードがONするためそれ以上電圧は下がりません。また、同様の理由で電源電圧+Vf以上に上がることもありません。
ちなみに還流ダイオードとは、ツェナーダイオードや発光ダイオードのようにある特性を持ったダイオードとしての名称ではなく、電流を還流するためといった目的に関連して付けられた名称です(還流ダイオードという商品はおそらくありません)。還流ダイオードの他に、フリーホイールダイオード、帰還ダイオードなどとも呼ばれます。
このダイオードの目的は、トランジスタをOFFさせた時の回路素子の保護のためにあります。上図に、電流が流れていたトランジスタをOFFした時の電流の流れを示します。モーターの場合、電流はコイルを流れているため、トランジスタをOFFして電流の流れを止めようとするとコイルには電圧が発生します(図中の式を参照。この式は電流が変化すると電圧が発生することを意味している)。この電圧が大きい場合、トランジスタを破壊することがあります。
この破壊を防ぐため、トランジスタと並列にダイオードを設置しています。ダイオードがあると、Gnd-Vf以下、もしくは電源電圧+Vf以上の電圧がかかるとダイオードを介して電流が流れクランプされる(それ以下/以上の電圧にはならない)ため、トランジスタを保護することができます。
この現象は、図示していませんが図中でPWMと示している上側のトランジスタでも同様に起こります。上側の場合は下側のダイオードが電流経路となり保護されます。
この、オープンのはずの巻線端子の電圧が、電流が流れていたために電源電圧側、もしくはGnd側に「張り付く(クランプ状態になる)」現象はモーター制御回路において頻繁に起こります。この現象を活用する制御も存在しますので覚えておいてください。
還流ダイオードとして、各パワートランジスタと並列に別個のダイオードが置かれることもありますが、MOSFETでは構造上の寄生ダイオード(ボディダイオード)が内在しているため、その寄生ダイオードの特性が還流目的に十分である場合、そのまま流用されるのが一般的です。したがって、図に示したMOSFETに還流ダイオードがない回路は本来存在しません。説明のため還流ダイオードがない回路図を示しました。
次に「ブラシレスモーター駆動の実際の信号波形」の最後となる4つ目、「電源電流」の説明です。
ブラシレスモーター:電源電流
モーターを回している際に確認する主な電気信号として電源電流があります。電源電流は文字通り電源に流れる電流です。モーターの特性を考えるうえでは、各相の巻線に流れる電流波形の理解が必要と説明してきましたが、電源電流の理解もモーターを制御するために重要です。(注:ここで説明する電源電流は、図のように電源からパワートランジスタを介して巻線コイルに流れ、電源に戻る電流を指します。コントロールICやトランジスタのゲート駆動電流は含みません)
まず、電源電流とはどういうものか、図を使って説明します。電源に流れる電流は、パワートランジスタのON/OFFの状態によって変化します。図のa~eの波形の状態について説明します。

- a:U相上側トランジスタから巻線を通り、W相下側から電源に戻るように流れている。よって、電源電流にはU相巻線電流と同じ波形が現れる。
- b:上側トランジスタがOFFし、U相下の還流ダイオードを介して電流が流れる。この時、電源に向かう電流はなくなる。
- c:U相のPWM区間が終了すると、U相に流れていた電流はダイオードを介して流れながら徐々に減少し、ゼロになる。この時の電流は電源電流には現れない。
- d:この部分はaと同様で、V相からW相、そして電源へ流れる電流が現れる。
- e:この部分はbと同様。
このように電源電流は、パワートランジスタのON/OFFの論理によって波形が変化し、その波形はパルス状(巻線電流と同じ電流量が流れているか、もしくは流れていないか)になっています。
電源電流の理解が必要なのは、モーターの制御では電源電流に巻線電流の情報が含まれることを利用するからです。モーターの制御において巻線電流値を把握することは重要ですが、巻線電流を直接検出しようとすると電流センサや絶縁型アンプなどの特別な回路が必要となります。それとは違い、電源電流は下図のような位置に抵抗(シャント抵抗と呼びます)を配置し、片方をGnd電位としてその両端電圧を測定することで検出できるのが利点です。

検出した値は、以下に用いることができます。
- ・電流の制限(大きくなりすぎるのを抑える制御)
- ・各種制御(巻線電流値から誘起電圧を推定、電流位相検出など)
電源電流にどのような情報が含まれているかを理解することで、モーター制御に役立てることができます。
これで、実際のモーター駆動信号波形において机上設計図であるタイミングチャートには書かれない振る舞いの中から、それまでの説明では単純には理解できないと思われるポイント5つについての説明を終わります。
次からは、ブラシレスモーターの出力特性に関する説明をしていきます。
この記事のポイント
・「巻線端子OFF区間の波形」とは、各相で上と下のトランジスタが両方ともOFFしている時に巻線端子に現れる波形のことで、この状態を、開放状態、オープン状態、Hi-Zなどと呼んでいる。
・OFF区間の巻線端子の電圧波形は、中性点電圧に誘起電圧が付加された波形なので、中性点を基準に巻線端子電圧を測ることでその相の誘起電圧を検出できる。
・誘起電圧を検出できると、モーターのロータ位置を推定でき、これがセンサレス制御に利用され広く普及している。
・還流ダイオードは、トランジスタOFF時にコイルに流れている電流により発生する電圧からトランジスタを保護する。
・還流ダイオードにより、Gnd-Vf以下、もしくは電源電圧+Vf以上の電圧が発生してもクランプされ、それ以下/以上の電圧がトランジスタに印加されない。
・この現象はモーター制御回路において頻繁に起こり、これを活用する制御も存在する。
・還流ダイオードは、各パワートランジスタと並列に別個のダイオードが置かれることもあるが、MOSFETには寄生ダイオード(ボディダイオード)が内在しているため、それが流用されるのが一般的。
・したがって、MOSFETをパワートランジスタに使用した場合、還流ダイオードがない回路は存在しない。
・モーターの電源電流は、パワートランジスタのON/OFFの状態によって変化する。
・電源電流の理解が必要なのは、モーターの制御では電源電流に巻線電流の情報が含まれることを利用するから。
・巻線電流を直接検出しようとすると電流センサや絶縁型アンプなどが必要となるが、電源電流はシャント抵抗で容易に検出できる。
・電源電流から検出した巻線電流の情報は、電流制限や位置検出などの制御に利用できる。

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