【第8話】初打ち合わせ!リアルな場での教訓

2024.06.28

前回までのあらすじ

これまでの勉強の成果が質問にあらわれだしている一ノ瀬。スギケン先生から「わからないことをそのままにせず、貪欲に学ぼうとする姿勢はエンジニアとしてずっと必要なこと」を学んだ一ノ瀬と二宮はスーパーエンジニアへの道を再び歩みはじめたのだった…

登場人物紹介

  • 一ノ瀬(主人公) 新人エンジニア。中学生の頃からエンジニアを目指し続けて、遂にロームに入社。寝食を忘れてモータードライバーの勉強をするほどの情熱家。現在、一ノ瀬にしかドラとター子が見えていない。
  • 二宮 一ノ瀬の同期の女の子。成績優秀でいつも1番。強気な性格だが努力家で、一ノ瀬にも一目置いている。スギケンの隠れ大ファンという一面もある。
  • スギケン ロームに所属するスーパーエンジニア。普段は優しいが、時に熱血。エンジニアの仕事に誇りと情熱を持っている。昔はスギケンにもドラとター子が見えていたが、今は見えない。
  • ドラ モータードライバーの妖精で、モーターに関わる人、詳しい人が大好き。 ター子に片思いしており、鈍感なター子にいつも振り回されている。
  • ター子 モーターの妖精で、ドラとは幼馴染。モーターに詳しく、その知識はドラを凌ぐほど。しっかり者のお姉さんでありながら、恋愛となると鈍感で、ドラの想いに気づいていない。

スギケン先生 プロフィール

ロームのモータLSI事業部で、アソシエイトフェロー(スペシャリスト職)として働いており、モータードライバーICの開発における各種技術アドバイスや、モーター特性を向上させるための新規駆動アルゴリズムの開発、社内外のモーター勉強会講師、モーター技術講演会なども開催しています。

ブラシレスモーターに求められる性能(効率)

前回の第7話まではブラシレスモーターの回転原理やその駆動回路の基礎、そして実際の電気的な波形を示しながらブラシレスモーターの特性について説明してきました。ここから、それらの知識を元にしてブラシレスモーターの性能について説明していきます。ここでの性能とは、効率、静音性、信頼性です。これらの性能はブラシレスモーターに常に求められる基本性能です。
それでは、これらの性能の意味合いに続いて、まず効率がどのような要因で決まってくるのか学んでいきましょう。

第8話目次

ブラシレスモーターに求められる性能

ブラシレスモーターは家電製品や産業機器、自動車など様々な分野で使われています。そのモーターには主に3つの基本性能が求められます。それは、効率と静音性、信頼性です。その他にも制御性(思うように動く性能)や使い勝手なども求められますが、基本性能としては前述の3つが重要です。以下にそれらの性能の意味合いなどについてまず簡単に説明します。

<効率>
世界の電力消費のうち半分はモーターが占めていると言われています。そう言われるほど電力を消費するモーターですから、他の電力消費部品よりも効率に対する要望が高くなります。電気製品に搭載される数ある部品の中で、モーター1つの効率を向上させれば、その電気製品の消費電力が抑えられて省エネ、地球温暖化抑制に貢献する商品となります(商品価値が上がります)。
モーターの効率にはモーター構造体の性能のみでなくモーター制御も大きく関わってくることは、第7話の「ブラシレスモーターの進角制御(進角調整)」などでも説明しています。ここでは、もう少し詳しく効率について説明します。

<静音>
モーターはあらゆる物を動かすために用いられていますが、その動くものは多くの場合、静音性が求められます。よって、モーターに関わる静音性能としては、モーターその物が出す音に加えて、物を動かす際に発生する音の抑制も重要な性能となります。たとえば夜中に動くエアコン、普段から使用する冷蔵庫や洗濯機、パソコンなどからも“ブーン“や”カタカタ”といった振動音が聞こえてくるのは不快であり不安になります。
これらの騒音の要因としては、モーター駆動による巻線電流の変化によって起こるトルク脈動も挙げられます。次回、これらの騒音についての基礎知識を説明します。

<信頼性>
家電製品などはいつか壊れるものだと言われますが、簡単に壊れてもらっては困ります。したがって、寿命や初期不良の有無はその製品の信頼性に関わります。
また、電気製品を使っている際に放出する電気的なノイズが問題となることがあります。それらの問題が起こらないように保証することも信頼性のひとつです。次回、モータードライバーの観点での信頼性について説明します。

ここまでのポイント

・モーターに求められる性能には、効率、静音性、信頼性がある。その他にも制御性や使い勝手を求められることもある。

・効率は省エネ、静音性は過ごし易さ、信頼性は安全性につながり、モーターを搭載する商品の価値に影響を与える重要な性能と言える。

ブラシレスモーターの効率

まず、モーターの効率とは何であるか、から説明します。モーターの効率は下に示す式で定義されます。式から、効率とは入力された電力に対してどれだけの出力を出したかの指標であると言えます。

では、モーターの出力とは何か、ですが、それはモーターの回転数と出力トルクから計算されるものであり、それに定数を掛けて出力(出力電力)とします。このことは下記の各計算式から導き出されています。

この計算式について説明します。まず、一般に出力の定義は、移動距離×力です。この定義をモーターのような回転体で表すと円周長(2πr)×回転数(N(S))×力(F)となります。この式のrFをモーターのトルク(T=rF)で置換え、N(s)(※N(s)は単位秒あたりの回転数です。)を回転数(N)(※このNは単位分あたりの回転数です)とし、残る2π/60を定数(α)とすればα×T×Nとなります。この場合のαの値は0.1047です。

次に効率の式の中の入力についてですが、入力は印加される電圧と電流の掛け算です。

これらを踏まえ、モーターの効率測定について説明すると、入力はワットメーターで測定し、トルクメーターと回転数メーターで各値を測定して出力を計算、それらから効率を算出します。

ところで、モーターは効率を良くすることを求められると前項で説明し、続いて効率の定義について説明しましたが、ここまでの計算式から考えただけでは何をどうすれば効率が良くなるかは分かりづらいと思います。効率を良くするには入力を減らせばよいことは式から分かると思いますが、では、何をすれば入力を減らせるのかが導き出せません。そこで、そもそも入力とは何で決まるのかを説明します。それを知ることで効率向上を検討できるようになります。

モーターの入力は何で決まるのか、それはモーターの出力と損失の足し算で決まってくると言えます。モーターは出力を出そうとすると損失を伴います。その損失分を加味した入力が必要になると言う表現もできます。
よって、この損失を少なくすることができればモーターの効率を向上させることができます。これを考えるにはモーターの損失についてもう少し詳しく知る必要があります。

ブラシレスモーターの損失

モーターの効率に影響を与える損失は、主に下図の5つに大別されます。

モーターの機構体(構造体)で発生するのが「銅損」、「鉄損」、「機械損」です。モーター駆動回路での損失は「制御回路電力」と「パワートランジスタ損失」になります。それぞれについて説明します。

まずはモーター機構体での損失です。
※ここで示す計算式のうち、銅損の計算式以外はこれらの式とは異なる計算式が推奨される場合もあります。

<銅損>
銅損は巻線に電流が流れることによる損失です。巻線には主に銅線が使われているため銅損と呼ばれます。巻線の抵抗値は巻線仕様(巻数や銅線の線径)が関係します。また、モーターがトルクを出す時に必要な電流も巻線仕様によって変わるので、銅損はモーターの仕様や出力状態によって変化します。

<鉄損>
鉄損はモーターを構成する鉄板に磁束が通ることで発生する損失です。この鉄損は渦電流損とヒステリシス損と呼ばれる損失の総損失となります。
渦電流損は、鉄板内の磁束量が変化する際に発生する渦電流による抵抗損失です。この渦電流は磁束の変化を妨げる方向に発生するので損失となります。
ヒステリシス損は、鉄板の磁化状態が反転する際に発生する電力損失です。鉄板は外部磁界により一旦磁化されると、その外部磁界がなくなっても磁化が残ります。これを残留磁束といい、その特性グラフをヒステリシス曲線と呼びます。残留磁束があると極性が反対の外部磁界をかけて鉄板を磁化しようとした時に残留磁束の分だけ余分に電力を必要とするためそれが損失となります。

<機械損>
主に軸受部分の摩擦損失です。

 続いて回路での損失について説明します。

<制御回路電力>
制御回路で消費される電力です。ここでは、コントロールICやレベルシフト、ホール素子などで消費される電力を指します(レベルシフト部にはパワTrの駆動電力も含まれます)。モーター機構体の損失とは違い、モーターの特性や出力状態に関わらずほぼ一定電力を消費します(※パワTrの駆動電力は巻線電流に依存する場合があります)。

<パワートランジスタ損失>
パワートランジスタと呼ばれる、モーターの巻線に電力を供給するトランジスタ(ここでは例としてMOS-FET)で消費する損失です。トランジスタのドレインソース間電圧Vdsとドレイン電流Idが関係する損失で、スイッチング損失、オン抵抗損失、ダイオード損失の総損失です。
スイッチング損失は、トランジスタがオン⇔オフ動作をする際の損失です。スイッチングの動作中、VdsとIdは下図のように変化します。それぞれの状態の遷移に時間を要し、また、電圧と電流の遷移のタイミングもずれていて同時に値を持つ(電圧がかかっている状態で電流が流れる)ため電力消費が発生します。
オン抵抗損失は、MOS-FETがオンしている時に抵抗で消費する損失です。オン抵抗RonとIdで決まります。
ダイオード損失は、MOS-FETの寄生ダイオードを電流が流れている場合に発生する損失です。ダイオードオン電圧VFとIdで決まります。

ここで、これらのモーターの損失の測定方法について簡単に説明します。
これらの損失は下図に示すような測定器の構成で簡易測定します。まず、モーターの状態を損失測定したい所望の回転数とトルクとし、図の位置に配置した2つのワットメーターでその時のモーター入力、回路込み入力をそれぞれ測定します。
そして、モーター入力とモーター出力の差をモーター機構の損失とし、回路込み入力とモーター入力の差を回路損失とします。
次に、モーター機構の損失の内訳を計算します。銅損は巻線電流と巻線抵抗値から計算します。機械損はモータードライバーによるモーター駆動は止めた状態で外部動力を使ってモーターを回し、その時のトルクと回転数から算出します。そして、モーター機構の損失から銅損と機械損を引いた残りを鉄損とします。
回路損失の内訳を確認したい場合には、制御回路につながる電源とパワートランジスタにつながる電源を分け、それぞれにワットメーターを接続して測定することで確認できます。

これらの損失の知識から、それぞれの損失の低減方法として以下のようなことが考えられます。これらは通常のモーター設計で実施される例です。この他にも永久磁石の磁束密度アップによる巻線電流の低減(銅損、パワーTr損失の低減)など、損失低減の観点でモーターの開発が行われています。

この記事のポイント

・効率は、入力に対するモーター出力の割合である。

・モーター出力は回転数と出力トルクから計算される。

・入力はモーター出力と損失を足したものと言えるので、損失を減らせば効率があがる。

・損失には、銅損、鉄損、機械損、制御回路電力、パワートランジスタ損失がある。

・損失項目のそれぞれに低減方法があり、それらを考慮したモーター設計がされている。

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