スギケン先生のモーターライブラリー|はじめてのモーター

はじめてのモーター

2024.10.24

「はじめてのモーター」は、“これからモーターについて勉強していこう”というモーター初心者向けに、モーターとはどのようなものか、どういった原理で回っているのか、回すためになにをしているのかなど、モーターの基礎の部分を解説しています。

ここに書くのは、各種のモーターやモーターを駆動する制御技術について考える際に、前もって知っておいた方が良い知識です。モーターについての詳しい勉強を始める前に、まずは基礎知識を学んでおきたいという方にお読みいただきたいと思います。

ただ、基礎知識だからといって簡単という訳ではありません。また、モーターの基礎となる技術的な内容を理解いただくために、ある程度の物理の知識も必要となることをご承知おきください。

「はじめてのモーター」の内容

  • ・モーターとは
  • ・電磁石の基礎
  • ・トルクの基礎
  • ・トルクへの変換方法
  • ・電磁石の制御
  • ・モータードライバーの役割
  • ・永久磁石を使ったモーターでは避けて通れない誘起電圧の話
  • ・トルク定数と誘起電圧定数

それでは、まず“モーターとは”から説明していきます。

モーターとは

モーター(Motor)は、動力を生み出す装置の総称です。その動力源としてはさまざまなエネルギーがありますが、本書でのモーターは、電動機(Electric Motor)と呼ばれている、電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する装置のことです。

ここでの電気エネルギーとは、モーターにかける電圧と流す電流のことです。この2つを乗算したものが電力です。モーターはこの電気エネルギーを使って電磁石をつくります。この“電磁石をつくる”とは、コイル(巻線)の両端に電圧をかけ、電流を流して磁石とすることです。

力学的エネルギーは、モーターの回転力のことです。この回転力をトルクといいます。モーターはこのトルクを発生させることで、モーターにつながったものを動かします。

電磁石とトルクの図

これらのことから、前述の“電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する装置”を身近な言葉に言い換えると、“電力でものを動かす装置”となります。

では、モーターは電力をどのようにしてものを動かす力に変えるのでしょうか。この原理を理解するには、まず電磁石及びトルクとは何かを知っておく必要があります。そこで、まずその電磁石とトルクについて、それぞれの基礎を説明します。

電磁石の基礎

電磁石とは、磁性体に導体を巻いたものです(下図)。その導体に電流を流すことで磁石となります。なおモーターでは、この電磁石部分を巻線やコイルと呼びます。

一般に磁石といえば、赤と青に塗られた棒形状やU字形状のもの、黒色のシート状のものなどもあります。これらで使用されているのは永久磁石と呼ばれる磁石です。電磁石は、その永久磁石とは異なる特徴を持っています。まず、永久磁石は電力などのエネルギーを与えられなくとも磁力を維持できることが最大の特徴です。ただし、その磁力(極性や大きさ)を簡単に変えることはできません。電磁石は、電力(電流)を必要としますが、電流の向きや大きさを変えることで磁力を調整できます。この特徴を持つことが、モーターに電磁石が使われる理由といえます(永久磁石も使用されます)。

では、電磁石ができることを具体的にみていきます(下図を参照)。まず、電磁石は導体に電流を流さなければ磁力を持ちません。実はこれも重要な特徴です。次に、電流を流せば磁力を持たすことができ、その電流を流す方向を変えることで極性(N極、S極)を変えることができます。この特性は、右手(右ネジ)の法則などで説明されています。さらに、電流の大きさを変えることで、磁力(磁石の強さ)を調整できます。

電磁石の基礎

電磁石の基礎

これらの、磁力をゼロにできる、極性を変えられる、強さを調整できる、という特徴を持つことがモーターにとって非常に重要です。モーターの電磁石は、これらの特徴を生かして使われるということを覚えておいてください。

次に、電磁石の強さについてもう少し説明します。

電磁石の強さは、導線を巻いた巻数とそこに流す電流の大きさにおおむね比例します(下式)。ここでその磁力の変化について、巻数や線径(線の太さのことで抵抗値に影響します)を変えたときを例に下図に示します。例えば、基準となるものに対して導線を太くすると、磁力は上がります。これは、導線を太くすることで抵抗値が下がり、電流値が増えるからです。また、太さはそのままで巻数を増やしたとします。この場合は磁力に大きな変化はありません。巻数が増えることにより導線が長くなり、抵抗値が上がって電流値が下がるからです。では、巻数を増やし、かつ導線を細くしたらどうでしょう。この仕様では、抵抗値が前の例より大きくなり電流値が下がります。この電流値の低下量を巻数の増加だけではカバーできないため、磁力は基準のものより低下します。

電磁石の強さ=巻数×電流

電磁石の基礎

実際のモーターでも、例に示したものと同じように巻数や線径を調整します。モーターによって、使用できる電流量や欲しい磁力が変わるからです。なお、上図の基準のものと巻数大のものでは磁力が変わらないので、変更する意図が分かりにくいかもしれませんが、実はこの2つは消費電力に違いがあります。このことは、モーターの効率、省エネ性能に関わります。

ここで、巻線(電磁石部分)の消費電力と出力である磁力の関係について、数値を使って説明します。

基準のものの各数値を100とします。ただし電流のみ1を基準とします(電圧100を抵抗100で割ると電流1の方がイメージしやすいため)。

導線を太くする仕様では、線径を1.41倍とします。これで導線の断面積が2倍になるため、抵抗値は半分になります。その結果、消費電力と磁力は2倍となります。ここで、基準のものと比較するため、磁力が100となるように電圧を調整したとします。すると消費電力は50となり、基準のものより消費電力が少ないことが分かります。

巻数を多くする仕様では、巻数を2倍とします。この場合、消費電力は半分で磁力100を得ることができます。

巻数を多くし導線を細くする仕様では、巻数を2倍、線径を0.71倍とします。線長が2倍、導線の断面積が半分になるため、抵抗値は4倍になります。その結果、消費電力は1/4となり、磁力は半分になります。ここで、磁力が100となるように電圧を調整すると、消費電力は100となり基準のものと同値となります。

このように、磁力を基準に合わせるとそれぞれの仕様の性能が分かります。これらの仕様の中で、磁力に対して消費電力が少ないのは、導線の体積が大きいもの(下図で体積が200のもの)です。ここでの体積とは巻数(長さ)と線径の2乗(断面積)のかけ算で算出されるもので、導体の量といえます。このように、モーターの消費電力にはモーターで使う導線の量が深く関係します。モーターは消費電力(効率)の大小も設計項目のひとつとなるので、その観点からも巻数や線径が検討されます(この仕様のことを巻線仕様といいます)。

電磁石の基礎

さて、導線を多く巻けば消費電力を少なくできると説明しました(ここでの“多く巻く”は単に巻数が多いという意味でなく、導線の量が多いという意味です)。ここで、モーターに巻く量の限度について触れておきます。

モーターの効率を良くするためには導線を多く巻きたいですが、実際にはさまざまな制限があります。まず、モーターの巻線は下図のような形状をしています。導線を巻く磁性体(主に鉄)の部分をコアと呼び、その形状は内側に開けたものと外側に開けたものがあります。これらの形状の寸法を変えないとするなら導線を巻くスペースには当然、限界があります。スペース以上に巻くことはできません。また、制限には磁気飽和を考慮するための設計的なものもあります。巻数や電流を増やせば磁力が比例して増えると説明しましたが、実際には磁性体の飽和磁束密度以上には磁束(磁力)は増えません。巻数が多くても少なくても、電流が大きくなれば磁気飽和してしまいます(下のイメージ図)。磁気飽和すると、電流が増えているのに磁力が上がらないためその分は無駄になります。よって、磁気飽和が起きないような巻線仕様の設計が必要です。これら以外にも、導線のコストや巻線工法による制限などがあります。

電磁石の基礎

以上がモーターにおける電磁石の基礎になります。

トルクの基礎

トルクは、回転する力です。モーターにおいてこの回転する力は、ものを動かす力の指標であり、モーターの出力電力を計算する際に使用する数値であり、モーターの振動に関係する特性ともなります。この出力電力や振動はモーターの主要性能である効率と騒音に関係してくるため、モーターを学ぶ場合にはトルクについて知っておく必要があります。

そのようなトルクですが、この力の定義は少し複雑です。例えばものを押す力はニュートン(N)で示され、1Nは1kgの物体を1m/s2で加速させる力と定義されています。ものを押す力はどのように与えても変わらないので、このような定義となります。しかし回転力の場合、ここにどの位置から与えるかの定義が必要になります。例えば、ネジを回すドライバーの持ち手部分が太くなっていたり、ボルトを締める工具が長くなっていたりするのには理由があります。これは、回転する(させられる)力が、回転の軸からみた力を与える位置(距離)に比例して変化することを利用するためです。式で表すと、トルクは軸からの距離(半径\(r\))と力\(F\)のかけ算で計算されます。単位はニュートン・メートル(N・m)です。同じ力を与える場合、距離が長ければその分だけトルクが増えます。

ここまで、トルクを与える方の視点で説明しましたが、モーターはトルクを出す方です。トルクを出す方の視点で表現すると、トルク1N・mは、軸の中心から1m先で1Nの力を出せる回転力といえます。出す方の場合、距離が長くなるとその分だけ力は減ることになります。

トルクの基礎

ドライバーとレンチのイラスト

次に、モーターが回す負荷(モーターが動かすもの)とトルクの関係について例を使って説明します。

モーターによって動かされる側にもトルクの概念があります。例えば、下図(左)のように \(m\) kgのおもりを紐でぶら下げ、半径\(r\)の円板を使って動かす場合、必要なトルクは \(r\)×\(m\)×\(g\) N・mです(※\(g\)は重力加速度、9.8m/s2)。このトルクの大きさはモーターの回転数(おもりの速度)に依存しません。ただし、速度を変える場合(加速度がゼロでない場合)は、その加速度に見合ったトルクが必要となります(加速時は加算、減速時は減算)。また、下図(右)のようなファンを回す場合、必要となるトルクはファンの特性に依存します。一般にファンの特性は、回転数が上がると必要となるトルクが増えていきます。

このように、モーターが回す負荷にはさまざまなトルク特性があります。モーターがこれらの負荷を回す場合には、負荷に見合うトルクを出力する必要があります。これが、モーターのトルクがものを動かす力の指標(動かせるかどうかの指標)となる理由です。

トルクの基礎

ここで、トルクの基礎の最初に書いた、モーターの出力トルク(回転する力)が出力電力と振動に関係することについても説明します。

一般に、出力電力は単位時間(1秒)あたりの移動距離と力のかけ算で計算されます(下図中の式参照)。回転体の場合、移動距離は円周の長さと回転数(回転速度)で算出します。円周の半径を\(r\)(m)、モーターの回転数を1分間の回転の回数\(N\)(r/min)とすると、単位時間にするために60で割って、移動距離は2π\(rN\)/60です。この移動距離に力\(F\)を掛け、その式内の\(rF\)をトルク\(T\)(N・m)に置き換え、さらに2π/60を定数αとすると、出力電力は定数×トルク×回転数(α\(TN\))となり、トルクが関係する式となります。モーターの出力電力を計算する場合には、この式を用います。

次に振動についてです。ここまでモーターの出力トルクについて、下図に示すような一定の大きさであるかのように説明をしてきました。ですが、実際の出力トルクは一定であるとは限りません。下図は横軸を時間として出力トルクの変化をイメージしたものです。理想は出力トルクが一定であるものですが、モーターによっては図のように周期的な脈動を持つものもあります。このような脈動は、モーターが電力をトルクに変換する際のその方法が主な要因となって、モーターの1回転内で起こるものです。もちろん、1回転するより長い周期でのトルク変動が発生することもありますが、図のようなトルク脈動はモーターの細かい振動に深く関係してきます。

なお、負荷を回す指標や出力電力の計算に使用する場合のトルクの値は、その平均値をとったものになっているといえます。

トルクの基礎

以上がモーターにおけるトルクの基礎になります。

トルクへの変換方法

ここまで、電磁石とトルクの基礎を説明してきました。これらの基礎知識を元に、続いて“モーターは電力をどのようにしてものを動かす力に変えるのか”について説明していきます。

まず、モーターは電力で電磁石を作り磁界を発生させます。この磁界を使って力を得るには、磁石の引力(斥力)と電磁力の2つ方法があります。磁石の引力は、磁石が磁性体を引っ張る力です。対象の磁性体が磁石であった場合、磁石の極性によっては斥力(遠ざける力)となることもあります。電磁力は、磁界中にある導電体に電流を流したときに発生する力です。フレミングの左手の法則で示される方向に力が働きます。

モーターはこの力を回転力に変換します。具体的には、下図のように力が加わる物体に軸をつけて、力が回転方向に働くようにします。

トルクへの変換方法

この回転力への変換方法を基本として、実際のモーターでは下記のような組み合わせのものが使用されています。

トルクへの変換方法

  • ・電磁石と永久磁石の組み合わせ
    磁石と磁石の引斥力を利用します。永久磁石が回転するものと、電磁石が回転するものがあります。
    図のモーターは、ブラシレスモーター、永久磁石界磁のブラシ付きモーターをイメージしています。
  • ・電磁石と電磁石の組み合わせ
    磁石と磁石の引斥力を利用します。
    図のモーターは、電磁石界磁のブラシ付きモーターをイメージしています。
  • ・電磁石と磁性体の組み合わせ
    磁石と磁性体の引力を利用します。磁性体が回転するものが一般的です。
    図のモーターは、ステッピングモーターをイメージしています。
  • ・電磁石と導電体の組み合わせ
    電磁力を利用します。
    図のモーターは、かご型誘導電動機をイメージしています。
    誘導電動機は、導電体に誘導電流を流すことで電磁力を得るモーターです。

ここで、上記の誘導電流と電磁力、誘導電動機について説明を加えます。

磁場中を導電体が移動する(若しくは磁場が移動する)とその導電体に電流が流れます。この電流を誘導電流といいます。移動方向に対して電流が流れる方向は、フレミングの右手の法則で示されます。例えば、下図の1の位置から磁場が2のように移動した場合、図中の奥から手前に向かって電流が流れます。この電流の発生により、3に示す電磁力が発生します。

まとめると、磁界(磁石)を動かすことで導電体に電流を流し、その導電体に加わる力を利用するのが誘導電動機です。

トルクへの変換方法

ここまで、モーターが回転力を得る方法について説明してきました。ただ、ここまでの説明だけでは、回転力を得た後に下図のような位置で回転が止まってしまうことが想像されます(図の例:電磁石と永久磁石の場合)。もちろん、実際のモーターではそのようなことはありません。また、誘導電動機の説明で磁界を動かすと書きましたが、動かす方法を説明していません。

そこでまず、磁石の引力を利用したモーターの回転を続けさせる方法について説明します。具体的には、“回転力の変化”と“電磁石の切替え”について順に示していきます(電磁力を利用したモーター(誘導電動機)は後述します)。

トルクへの変換方法

回転力の変化を説明する前に、ここでモーターの模式図をここまでの図から少し変更し下記のようにします。また、回転する側をローター、ローターに回転力を与える側をステーターと呼ぶことにします。

トルクへの変換方法

モーターの回転力は、磁石同士の相対角度、若しくは磁石と磁性体の相対角度で変化します。この回転力の変化を図にすると下記のようになります。

まず下図は、ローターを永久磁石、ステーターを電磁石とし、電磁石の磁力を一定とした場合の回転力(トルク)の変化を示しています。同じ極が対面している位置を相対角度0度としています。この角度でのトルクはゼロです。相対角度が90度の位置では、左回転するトルクが最大となります。そして、180度位置ではトルクゼロ、270度位置では右回転するトルクが最大となります。

トルクへの変換方法

次に、ローターが磁力を持たない磁性体である場合を示します。ここでは磁石と磁性体の相対角度を下図のように定義します。相対角度が0度のときはトルクがゼロです。45度の位置で左回転のトルクが最大となります。そして、90度でトルクがゼロとなり、135度で右回転のトルクが最大となります。180度から360度までは0から180度の関係と同じです。これは磁性体が磁力を持っていないため、同じ角度の繰り返しとなっているからです。

トルクへの変換方法

これらのことからモーターが回り続けるには、ローターとステーターの相対角度を一定の範囲内に保ち続ける必要があることが分かります。下図はローターを左回りさせる場合の例です。

  • ・磁石と磁石  左回り : 相対角度が0度から180度の範囲の位置を保つ。

    磁石と磁石【左回りの図】

  • ・磁石と磁性体 左回り : 相対角度が0度から90度の範囲の位置を保つ。(180度以降は省略)

    磁石と磁性体【左回りの図】

ここで、回るローターに対して、ステーターの磁石が上記のような相対位置を保つには、その磁石を動かす必要があるということになります。ただ、もちろんステーターを動かすことはできないので、実際にモーターが行うことは電磁石の切り替えです。具体的には、ステーターの電磁石を次のように切り替えればローターを回し続けることができます。

まず、電磁石と永久磁石の場合は、下図のようにステーターの電磁石の極性を切り替えることで左回転トルクを常に得ることができます。

電磁石と永久磁石の場合の図

電磁石と永久磁石の配置を変えて、ローターを電磁石とし、ステーターを永久磁石にしているモーターもあります。このような構成の場合も、ローターの位置に応じて電磁石の極性を切り替えます。

電磁石と永久磁石の配置を変えた場合の図

磁石と磁性体の場合は少し工夫が必要です。前述の図の中で、右回転トルクとなっていた角度のところを左回転トルクにするには、90度ずれたところに電磁石が必要となります。そこで下図のような構造とし、それぞれの電磁石を切り替えることで左回転のトルクを常に得ることができます。

磁石と磁性体の場合の図

トルクへの変換方法のここまでの内容をまとめると、

  • ・回転力は、磁石の引力や電磁力を利用して得る。
  • ・磁石の引力を利用するモーターは、ステーターとローターの相対角度で回転力の大きさが変わる。
  • ・回転し続けるために、電磁石の磁極の切り替えをする。

となります。

この中で、電磁石の磁極を切り替えていく動作について、ここまでは最も簡単といえる切替え動作を例に説明してきました。実際には、より複雑な動作をさせる方法がいくつかあり、さまざまなモーターで使われています。次にその内容を簡単に説明します。

複雑な動作をさせる主な目的は、電磁石でつくる磁界の向きの選択肢の拡大です。ここまで説明した主なコイル(電磁石)の構成は、実質1つのコイルに対して電流を流す方向を変えるだけのもので、磁界の向きは2方向です(下図)。これでもモーターを回すことはできますが、トルクが大きく脈動し、モーターの振動に影響します。また、同じ電流を流してもトルクが小さいところがあることは、モーターにとって効率的ではありません。これらの課題を解決するには、ローターの回転位置に応じて電磁石の磁界の向きを細かく調整できるようにする必要があります。ここで例えば、コイルの数を8倍に増やせば、下図のようにトルク脈動を減らせ、トルクが大きいところを使い続けることができます。ただ、このような構成の場合は1つ1つの電磁石が小さくなるうえ、回転中のほとんどのタイミングで電磁石化されていないコイルが多くなるなど、実際には課題が多い構成となります(このように電磁石の多いモーターを見たことがあるかもしれませんが、そのようなモーターとここで示すものは恐らく異なります。)。

コイルが実質1つの場合

コイルが実質8つの場合

実は、つくりたい磁界の向きの数に合わせて上記のようにコイルの数を増やさなくても、磁界の向きを細かく調整する方法があります。それは、磁界の合成と磁界の大きさの調整をすることで実現できます。

磁界の合成は、2つ以上の方向の磁界をベクトルで考えて1つの方向とするものです。例えば下図のように、90度の角度差がある磁界や120度間隔のコイルでつくる磁界も、合成で1つの方向として考えることができます。コイルに電流を流す場合と、流さずに磁界をつくらないコイルをつくることも組み合わせると、磁界の方向はそれぞれ8方向、6方向をつくることが可能です(電流を流す場合の電流値は一定)。

磁界の合成のイメージと合成によりできる磁界方向の例

ここからさらに磁界の大きさ(電流の大きさ)を調整することで、磁界の方向を自在に調整できます。下図は、合成磁界の向きを調整する場合に生成する各磁界の極性と大きさの例を示しています。合成磁界の向きは、0度を矢印が右向き(時計3時の方向)とし、そこから左回転とします。また、図の例の波形はそれぞれ正弦波形状です。正弦波形状とすることで合成磁界の大きさを一定にできます。

電磁石が2方向のものは、AとBのコイルがあります。そして、例えばAの磁石がS極の場合、対面するA(上に棒線-があるA)はN極となり、磁界の方向は上向きです。よって、図中の「1」で示すような電磁石磁界を生成すると、合成磁界は図のような向きとなります(時計1時の方向)。図では分かりにくいかもしれませんが、正弦(sin)と余弦(cos)の関係を思い出せば、このようにすることで合成磁界が0度から360度の範囲で生成されることがイメージできると思います。

電磁石が3方向のものは、aとbとcのコイルがあります。この配置の場合、対面するコイルはありませんので、例えばaがs極の場合には磁界の方向は上向きとします。合成磁界の元となるベクトルが3つとなるだけで、考え方は2方向のものと同じです。

合成によりできる磁界方向の例

モーターでは上記のように、電磁石の方向の設計や、磁力の大きさを調整することでさまざまな合成磁界を生成し活用しています。

ここで誘導電動機について説明します。前述したように、誘導電動機は磁界を動かすことで導体に誘導電流を流し、その導体に加わる電磁力を利用するモーターです。この導体は、磁界の動きについてくるイメージです。よって、ついてくる導体に対して、磁界は常に動き続ける必要があります。この磁界を動かし続けることが、さきほど説明した回転する磁界(回転磁界)で可能となります。

ただし、実際のモーターとする場合にはまだ課題があります。それは回転磁界であるがため、磁界の方向と導体が動く方向が直角を維持しないという点です。直角でなくなった場合、電流の大きさは磁界と直角方向の移動成分のみの大きさとなります(ここはベクトルの分解で考えます)。また、電磁力も回転方向に寄与する成分は角度によって変わってきてしまいます。

トルクへの変換方法

この課題は、導体を複数用意することで解決します。下図は2本の例ですが、導体の移動に伴い順に誘導電流が流れ、電磁力(回転力)を維持します。

トルクへの変換方法

これらのことから、回転磁界をつくるステーターと導体のローターは下図のような構造のものが使われています。ローターの形状がかごの形に似ていることから、かご型誘導電動機と呼ばれています(図のステーターは簡単な構造の例です)。

トルクへの変換方法

以上が、トルクへの変換方法の説明になります。

電磁石の制御

ここまで、モーターがどのようなものかについて解説してきました。その中で、モーターが回転を続けるには電磁石を切り替えていく(磁力を調整していく)必要があると書いています。そこで次に、この電磁石の制御について説明していきます。

電磁石の制御には大きく2つの観点があります。1つはどうやって磁力の切替えや調整をするか、もう1つはその切替えと調整のタイミングをどうするか、です。これらはそれぞれ1つの解ではなく複数のやり方があり、その違いがモーターの種類(分類)の違いにもなっています。

まず、切替えや調整には主に下記に示す方法があります。

AC電源、機械スイッチ、電気スイッチ

  • ・AC電源
    家庭用コンセントの単相AC100Vの電源や工場などで使用される3相交流電源をほぼそのまま利用して
    電磁石をつくる方法です。交流(正弦波)の周波数に同期した回転磁界が生成されます。
  • ・機械スイッチ
    直流若しくは交流の電源電圧を2つのブラシに接続し、整流子とブラシの接触によってコイルにかける電圧を
    切り替えます。整流子にはコイルがつながっています(この部分が回転します)。この方法の場合、切替えの
    タイミングは整流子とブラシの接触タイミングで決まります。
  • ・電気スイッチ
    直流若しくは交流の電源電圧(回路が対応している場合)を、電子部品を使ってコイルに振り分けます。
    スイッチとなる電子部品にはトランジスタが使われます。トランジスタは電圧(電流)をオン/オフする機能が
    あり、そのオン/オフ動作の指令も電気信号で受け取ることができる半導体部品です。

次に、電磁石の切替えや調整のタイミングです。これらは、モーターのトルク変換の原理や、得たい性能の観点などで決まってきます。具体的には下記のような方法があります。ただし、下記のローター位置を把握するかどうかの説明は、モーターを駆動する際の動作を説明するものです。モーターの制御性(思い通りに動かす性能)向上や速度制御、位置制御のような高度な制御をする場合は、その制御目的でローター位置の把握をすることがあります。

ローター把握、ローター半把握、ローター把握せずの図

  • ・ローター位置を把握して磁界生成(図:ローター把握)
    ローターの位置を把握しつつ、必要とするトルクが発生する向きに電磁石磁界をつくります。
    ローターが電磁石に完全に引きつけられる前に磁界が進んで回っていくように電磁石を生成することで、
    比較的効率よくモーターを駆動できます。
    このような切替え方法のモーターには、ブラシレスモーターやブラシモーターがあります。
  • ・ローター位置を気にしつつローターがついてくるように磁界を生成(図:ローター半把握)
    ローターの位置の直接的な検出はせず、必要とする方向に電磁石磁界をつくります。
    ローターの位置の把握はしませんが、電磁石によってローターが引き寄せられ、ついて回っていることを前提に
    磁界を動かしていきます。磁界の位置にローターを動かすので、位置制御を簡単に行えます。
    このような切替え方法のモーターには、ステッピングモーターがあります。
  • ・ローター位置を気にせず磁界を生成(図:ローター把握せず)
    ローターの位置は把握せず、回転する磁界をつくります。
    ローター位置を把握する必要がない原理で回るモーターの場合に使われます。
    このような切替え方法のモーターには、誘導電動機(誘導モーター)があります。

以上が電磁石の制御の説明になります。

次に、この電磁石の制御及びモーターの制御を行うために必要となる、モータードライバーについて説明します。

モータードライバーの役割

モーターを動かすには、モーターにモータードライバー(モーター駆動回路)と呼ばれる電気回路を組み合わせるのが一般的です。もちろん、前述したAC電源のみで動くモーターや機械スイッチのモーターは、必ずしもモータードライバーを必要とはしません。ただ、それらのモーターも回転数や回転方向を制御したい場合には、モータードライバーと組み合わせて使用することになります。

ここでは、モータードライバーの役割について説明します。

モータードライバーを使う理由のひとつは、モーターがさまざまな性能や機能をもつ必要があるからです。下記に示すのは、モーターに求められる主な性能や機能です。図に示す回転動作は、機械スイッチやAC電源を使って実現するモーターもありますが、前述したとおり、この動作も電子回路(モータードライバー)を必要するモーターもあります。また、出力調整や基本性能を向上させる部分、高度な制御をおこなう部分はモータードライバーが欠かせません。

モーターに求められる性能/機能

これらの性能や機能を実現するための、モータードライバーの主な役割を下に示します。モータードライバーは出力する電圧値を自在に調整できます。その性能を生かして、モーターの出力調整はもちろんのこと、トルク脈動を抑えることでの静音性の向上、損失を抑える制御、さらにはモーターを自在に操るために、モーターのトルク情報などを使った制御もおこないます。

モータドライバーの役割

上記の役割をするモータードライバーは、主に下図に示す電子部品で構成されます。コイル(機械スイッチ経由を含む)に電力を供給するのは、パワートランジスタなどと呼ばれる電子部品です。パワートランジスタとは比較的大電力を扱えるトランジスタのことで、このトランジスタがオン/オフすることでコイルと電源の接続をおこないます。そして、このトランジスタのオン/オフの制御をおこなうのが、IC(集積回路:Integrated Circuit。ここではソフトウェアを使用しないもののこと。)やマイコン(マイクロコントローラー。ここではソフトウェアを使用するもののこと。)です。駆動コントローラーであるこれらの部品が、上記の性能や機能を実現するために信号処理や計算をおこないます。なお、モーターに求められる性能や機能はモーターの用途によって異なるため、モーターによって駆動コントローラーに必要とされる処理能力も変わってきます。駆動コントローラーにさまざまな仕様や性能のものがあるのはそのためです。

モータドライバ(駆動回路)とモータの図

ここで、機械スイッチがない場合とある場合の回路の違いについて少し説明します。下図は3相ブラシレスモーターと3相ブラシ付きモーターの回路構成例です。

機械スイッチがない場合、3つのコイルへの電力供給はパワートランジスタから直接おこないます。この場合、モータードライバーはコイルへの電力供給の大きさと向き、そのタイミングまでを制御します。したがって、パワートランジスタが6つ、そのパワートランジスタのオン/オフを制御するコントローラーが1つ、が基本の回路構成となります。

機械スイッチがある場合、3つのコイルへの電力供給のタイミングは機械スイッチによって決まります。この場合、モータードライバーは機械スイッチへの電力供給の大きさと向きを制御します。したがって、パワートランジスタが4つ、そのパワートランジスタのオン/オフを制御するコントローラーが1つ、が基本の回路構成となります。

回路構成例(3相モータ)

以上がモータードライバーの役割の説明になります。

永久磁石を使ったモーターでは避けて通れない誘起電圧の話

ここまで、モーターは電磁石で磁界をつくって回ると説明し、その電磁石はコイルに電圧をかけて電流を流すことでつくると話してきました。また、この流す電流の大きさが、電磁石がつくる磁界の大きさとなること、磁界の大きさの調整がモーターを回すために重要であることも書いてきました。しかし、実はこの流れる電流の大きさに影響する要素についてまだ説明していないものがあります。それがこの項のタイトルにある、誘起電圧です。次にこの誘起電圧とは何であるかと、その影響について説明していきます。

永久磁石を使ったモーターにおいて、誘起電圧の知識は避けては通れない項目です。その誘起電圧とは、ローターが回ることによりコイルに発生する電圧のことで、いわゆる発電の電圧です。発電というと発電機が外力で回されることで発生する電力というイメージがあると思いますが、モーターが電力で回されている場合(自分で回っている場合)にも発生します。つまり、コイルに電流を流すために電圧をかけると、モーターが回ってその電圧を打ち消す誘起電圧(発電の電圧)が発生し、電流が減少します。これらのことを理解するために、まず誘起電圧の発生原理について説明します。

誘起電圧は、電磁誘導現象によってコイルの両端に発生する電位差です。ここでの電磁誘導とは、コイルの中を通る磁束の量が変化した場合に、その変化に反発する(元の磁束量を維持する)磁界を発生させる向きに、コイルに電圧が発生する現象です。例えば、下図(中)のようにコイルに対して磁石(N極)を近づけると、コイル内の右向きの磁束が増加します。すると、その増加を抑えるようにコイルは左向きの磁界を発生させようとします。左向きの磁界をつくる電流の向きは、右手の法則に従って図のような向きになり、また、その向きに応じた極性の電圧がコイルの両端に発生します。反対に、磁石を遠ざけると磁束が減少するため磁束を増やす方向の電流、電圧が発生します(図(右))。

電磁誘導

このコイルの両端に発生する電圧の大きさは磁束の変化の大きさに比例します。また、コイルの巻数にも比例するので、式に表すと下記のようになります。この式のbemfはBack Electro Motive Forceのことで、誘起電圧や逆起電圧を意味します。

発生電圧の式

この現象をモーターの図で説明すると下図のようになります。図は、永久磁石でできたローターがステーターの中で回ったときのステーターの中を通る磁束の変化をイメージしたものです。
永久磁石のN極から出た磁束が、S極に入る経路を示しています。下図の「1」のローター位置ではコイルAのティース(下図参照:導線が巻かれた磁性体の部分)はS極と対面しており、そのS極へ向かう磁束が通っています。そこからローターが左回転すると(図の「2」)、Aのティースの先端の一部はN極と対面し始め、S極との対面面積が減るためコイルを通る磁束は減少します。さらにローターが回転すると、図の「3」のようにコイルを通る磁束はゼロとなります(図示していませんが、さらに回転するとN極から出ていく磁束が通る量が増えていきます)。

モータの場合

モーターの場合、永久磁石が近づくや遠ざかるというよりは、回転によってコイル(ティース)が対面する磁石の磁極や磁束密度が変化していくイメージです。

以上が永久磁石を使ったモーターの誘起電圧の発生原理です。ここで、モーターの誘起電圧の波形がどのようになるかをもう少し説明します。下のグラフは、上から順に永久磁石の磁束密度の分布、図のAと書かれたティース部分を通る磁束の量、Aのコイルに発生する誘起電圧を示しています(ティースを通る磁束の量の変化が誘起電圧波形となるので、永久磁石の磁束密度分布まで示す必要があります。)。

永久磁石の磁束密度と、対面するティースの幅からティースを通る磁束量が分かります。下のグラフの左端はローターが図の位置にある時の磁束量です。N極とS極がほぼ同じ面積対面しているので、磁束量はゼロです。そこからローターが90度左回りに回ると、ティースと対面するのはN極だけとなり、磁束量(N極方向)が最大となります。そこからさらに左回転するとまたゼロとなった後に、S極が増えていき、1回転するとゼロに戻ります。

誘起電圧は、この磁束量の微分です。よって、誘起電圧の波形は図のようにプラスとマイナスを繰り返す波形となります。

誘起電圧波形のイメージ

なお、上図の誘起電圧は正弦波形状をしていますが、すべてのモーターがこのような波形になるとは限りません。誘起電圧の波形はさまざまな要因で決まりますが、特に着磁波形と呼ばれる永久磁石の磁束密度分布の波形が影響します。具体的には、上図のような波形となるのは、着磁が正弦波の場合です(下図も参照)。その着磁波形が下図のように台形の形をしていると、ティースを通る磁束量は正弦波の場合とは変わり、その微分である誘起電圧も図のような波形となります(理論上は実線のような波形ですが、実際は破線のようになまった波形になっていることが多いです)。

着磁波形と誘起電圧波形

ここまで、誘起電圧の発生原理と実際のモーターでの誘起電圧波形のイメージを説明してきました。次に、この誘起電圧がモーターの特性にどのような影響を与えるかについて説明します。

まず、誘起電圧の説明の冒頭にも書いた、コイル電流への影響です。誘起電圧がない場合、コイル電流は下図の計算式が示すように、印加された電圧とコイルのインピーダンス(抵抗\(R\)とインダクタンス\(L\))で決まります。ここに誘起電圧が発生することを考慮すると、計算式の左辺にマイナスで誘起電圧が追加されます。ここで気になるのは誘起電圧の極性ですが、モーターが通常動作をしている場合、印加する電圧と誘起電圧は図のような関係となります(ここでの詳しい説明は省略しますが、ここまでに説明したローターの位置とコイルに発生する誘起電圧の波形、そのときに流したい電流(トルクに関係)の向きなどを考えると図の関係になることが分かります)。図のような関係において印加する電圧から誘起電圧を引くので、電流は誘起電圧を考慮しない場合より小さくなります。また、誘起電圧の波形は前述したように正弦波に近い形状であるため、一定電圧を印加するとコイルに実際にかかる電圧は一定値とならず、電流が波打ちます(下図)。

コイルの電流波形(誘起電圧なし)とコイルの電流波形(誘起電圧あり)の図

ここで、誘起電圧の大きさについて補足します。前述したように、誘起電圧はティース(コイル)を通る磁束の微分です。したがって、モーターの回転数が変化すると誘起電圧の大きさが変わります。例えば回転数が100(単位省略)に対して回転数が200になると、磁束の変化スピードが倍になるので、誘起電圧の大きさも倍になります。回転数が400になればさらに倍の誘起電圧が発生します。反対に、モーターが回転していなければ誘起電圧はゼロとなります。このように誘起電圧はモーターの回転数に比例して増減します。

回転数100、回転数200、回転数300の図

ここまで、「誘起電圧はコイルを通る磁束の変化で発生する」、「誘起電圧波形は電流波形に影響する」、「誘起電圧の大きさはモーターの回転数に比例して変化する」ということを説明してきました。これらのことは下記のようなモーターの特性に関係してきます。

  • ・誘起電圧波形は電流波形に影響するので、トルク脈動、振動、騒音にも関係する。
  • ・ある電圧を与えられてモーターが回り出すと、誘起電圧が大きくなっていき、電流が減少してトルクも低下する。
  • ・ある電圧を与えられたモーターの回転数の最大値は、その電圧と誘起電圧がつり合う回転数である(トルクはゼロになる)。
  • ・印加する電圧がゼロ(コイル間の短絡)のときにモーターが回ると誘起電圧による電流が流れ、そのときの電流(トルク)の向きはモーターにブレーキをかける方向になる。
  • ・磁束の変化が誘起電圧に現れるので、誘起電圧から永久磁石ローターの位置(コイルとの相対位置)を推定できる。

このように、永久磁石を使ったモーターでは、モーターの性能や出力範囲、制御方法などに誘起電圧が関係してきます。

以上が誘起電圧の説明になります。

トルク定数と誘起電圧定数

ここまでモーターの基礎の部分について、知っておいた方が良い知識について説明してきました。その中で、モーターのトルクと誘起電圧についても説明してきましたが、実はこの2つの特性には関係があります。

トルクは電流に比例すると説明しました。また、誘起電圧は回転数に比例します。このことを式にすると下記のようになりますが、この式の中のトルク定数と誘起電圧定数は同じ値であることが知られています。

トルク=トルク定数×電流、誘起電圧=誘起電圧定数×回転数

定数にかかっているものや算出されるものは全く異なりますが、この定数は同じものです。このことについて次に説明していきます。

まず、トルク定数です。この場合のトルクは、磁界中にある導線に電流が流れたときに加わる力で考えます。下図のような長さ\(L\)の導線が磁界(磁束密度\(B\))の中に置かれ、電流\(I\)が流れると導線には力\(F\)が加わります。このときの力\(F\)は、磁束密度\(B\)と長さ\(L\)、電流\(I\)のかけ算で計算されます(これは、それぞれの方向が図のように直行している場合です。傾きがあると変化します。)。これを元に図のような回転体でトルクを考えます。この回転体は、半径\(R\)となるように導線を1周(1巻き)したものです。力\(F\)が加わるのは半径\(R\)の位置となり、さらに力が加わる部分は2つとなるので、トルク\(T\)は、半径\(R\)と力\(F\)のかけ算の2倍で計算されます。

F=BLIの図

ここで、モーターのコイルは1巻きだけでなく複数巻くこともあるため、トルク定数として考える場合には上記の式に巻数\(N\)をかけます。この式から、電流\(I\)以外の部分がトルク定数\(Kt\)(=2\(RNBL\))となります。

T=RFx2=2RBLIの図

次に誘起電圧定数についてです。前述の誘起電圧の項では、誘起電圧はコイルの中を通る磁束量の変化で発生すると説明しましたが、ここではフレミングの右手の法則を用いて考えます。下図のような長さ\(L\)の導線が磁界(磁束密度\(B\))の中を速度\(v\)で移動すると、導線の両端には誘起電圧\(e\)が発生します。このときの誘起電圧\(e\)は、磁束密度\(B\)と長さ\(L\)、速度\(v\)のかけ算で計算されます(トルクのときと同様に、それぞれが図のような直行方向であるとします。)。これを回転体で考えると、速度は角速度\(ω\)と半径\(R\)のかけ算になり、誘起電圧が発生する導体部分の長さは2倍となるので、誘起電圧は下記の計算式となります。

T=2RNBLI=KtI(Kt=2RNBL)

トルク定数の場合と同様に、この式に巻数\(N\)をかけると下記の式となります。速度(角速度)\(ω\)以外の部分を誘起電圧定数\(Ke\)とすると、\(Ke\)=2\(RNBL\)となり、誘起電圧定数とトルク定数は同じ値となることが分かります。

e=2RNBLω=Keω(Ke=2RNBL)

なお誘起電圧は、前述の「コイルの中を通る磁束量の変化で発生する」との視点でも説明できます。この場合、対象の導線を閉じた導線ループの一部と考えます。そのループを磁界の中に置くと、ループ内に磁束が通ります(薄グレー部分)。ここからループの対象の導線部分が下図のように速度\(v\)で移動した(ループが伸びた)とすると、ループ内の磁束はグレー部分の量だけ増加します。導線の単位時間の移動距離を\(x\)、導線の長さを\(L\)とすると、磁束が増えた量は磁束密度をかけた\(BLx\)です。誘起電圧は磁束の変化量(微分)なので、移動距離\(x\)を微分して速度\(v\)となり、前述の\(e\)=\(BLv\)が導き出されます。

トルク定数と誘起電圧定数

モーターにおいて、トルクは機械的な出力であり、誘起電圧は電気的な出力であるといえます。前項で誘起電圧のモーター特性への影響について説明しましたが、誘起電圧定数を変えるとトルク定数も変化すること、その反対にトルク定数を変えれば誘起電圧定数が変わることも知っておく必要があります。

ところで、ここで説明したトルク定数は下の左図の位置のトルクの大きさを示す定数です。角度が変われば電磁力は同じでも回転力(トルク)は変わります(中図、右図)。このことは、「トルクへの変換」の項でも同様のことを説明しています。この位置関係が変われば、トルク定数と電流が同じでも出力トルクが変わることは覚えておいてください。同じように、誘起電圧も式を使って回転数から計算すると一定値(直流値)であるかのようになりますが、当然そうではないことは前項などで確認してください。

トルク定数と誘起電圧定数

以上がトルク定数と誘起電圧定数の説明になります。

さいごに

以上で「はじめてのモーター」の説明を終わります。

モーターはここで説明したようないくつかの原理を元にして、さまざまな形態のものが考案されています。それらは、モーターに求められる性能である「効率」、「静音」、「信頼性」、「使い勝手」に加えて「コスト」も考慮し、重要視する性能を変えながら考えられたものといえます。さらに、そのモーターの動作を制御する回路技術の進化によって、求められる性能を実現する形態も変化し、複雑になっています。
これらのことを理解するには、ここに書いたような基礎の技術内容を知っておく必要があります。

この「はじめてのモーター」の内容が、読んでいただいた方の今後のモーターに関する勉強の一助となれば幸いです。

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