【第10話】疑問の先に!エンジニア一ノ瀬の学び
2025.02.12
前回までのあらすじ
前回、ター子とドラに助けられながらも騒音と信頼性について学んだ一ノ瀬。
今ではスーパーエンジニアのスギケン先生も昔はわからないことがいっぱいだったことを知って安心した一ノ瀬と二宮は改めてもっと知識を吸収しようと意気込むこととなる。
登場人物紹介
一ノ瀬(主人公) 新人エンジニア。中学生の頃からエンジニアを目指し続けて、遂にロームに入社。寝食を忘れてモータードライバーの勉強をするほどの情熱家。現在、一ノ瀬にしかドラとター子が見えていない。
二宮 一ノ瀬の同期の女の子。成績優秀でいつも1番。強気な性格だが努力家で、一ノ瀬にも一目置いている。スギケンの隠れ大ファンという一面もある。
スギケン ロームに所属するスーパーエンジニア。普段は優しいが、時に熱血。エンジニアの仕事に誇りと情熱を持っている。昔はスギケンにもドラとター子が見えていたが、今は見えない。
ドラ モータードライバーの妖精で、モーターに関わる人、詳しい人が大好き。 ター子に片思いしており、鈍感なター子にいつも振り回されている。
ター子 モーターの妖精で、ドラとは幼馴染。モーターに詳しく、その知識はドラを凌ぐほど。しっかり者のお姉さんでありながら、恋愛となると鈍感で、ドラの想いに気づいていない。
スギケン先生 プロフィール
ロームのモータLSI事業部で、アソシエイトフェロー(スペシャリスト職)として働いており、モータードライバーICの開発における各種技術アドバイスや、モーター特性を向上させるための新規駆動アルゴリズムの開発、社内外のモーター勉強会講師、モーター技術講演会なども開催しています。
ブラシレスモータードライバーの形態(構成要素)



モータードライバー道場の第1話から第9話では、モーターの回る原理やモータードライバーの基本動作、モーター機構の特性の基礎、効率や騒音、信頼性などのモーターの必要性能について説明してきました。これらはモータードライバーを開発する上で知っておきたい基礎の知識です。言い換えるとモータードライバーは、モーターが電気回路によってどうやって回っているか、どうすれば効率よく静かに回るか、信頼性面はどのようなことを気にすべきか、を理解し考慮しつつ開発されているのです。
ここでは、そのモータードライバー(モーター駆動回路)の構成や、具体的な回路ブロック(内部回路)について説明していきます。
第10話目次
モータードライバーの形態
ブラシレスモーターを駆動する回路は下に示すような構成になっており、大きくは3つの機能部に分けられます。ここではその機能部を、モーターを回す指令信号を生成する駆動コントローラー部と、モーターの巻線に電力を供給するパワートランジスタ部(群)、その2つの機能部の信号のやり取り(主に電位差調整)を補助するレベルシフト部とします。

これらの機能部は、下の表に示すような単機能若しくは複数機能を内蔵するものとしてIC化されています。モーター駆動回路を設計する際には、これらのICの1つ若しくは複数を組み合わせて上図のような回路構成となるようにします。

これらのICの構成(組み合わせ)をどうするかは、使い勝手や設計変更の自由度、パッケージの大きさ、基板上の配線数(難易度)、周辺電子部品の数、各回路ブロック(機能部)の耐電圧差、温度上昇(放熱具合)などの観点で考えます。したがって、どの組み合わせが良いかは一概には言えません。
ここで構成の例について簡単に説明します。
まず、全搭載のICはすべての機能部が入っており使い勝手が良いです。反面、パッケージサイズが他のICと比べて大きくなることや、設計変更の自由度が低いなどの制約があります。
単機能のICは、それぞれの組み合わせを変えることで用途に合ったモータードライバー仕様にできます。駆動制御の方式を変える場合には駆動コントローラーを変更し、出力を変える場合にはパワートランジスタやレベルシフトを変更できます。また、後述するパワートランジスタのスイッチング速度の調整ができるのも利点となります。だだ、全搭載のICと比べてICの周辺に必要となる電子部品や、基板上の配線が増えることがあります。
2つの機能部を入れたICはもう1つの機能を持つICと組み合わせて使用します。駆動コントローラー+レベルシフトのICは、パワートランジスタとの組み合わせを変えられる利点を持ちつつ、配線数を減らせますが、パワートランジスタにつながる部分の電子部品を減らすことはできません。レベルシフト+パワートランジスタのICは、全搭載のICの使い勝手の良さの部分を残しつつ、駆動コントローラーとの組み合わせを変えられる構成といえます。ただし、パワートランジスタのスイッチング速度調整ができないなど、設計自由度に制約があります(※特別な回路を内蔵して調整(選択)できるようにしたものもあります)。
前述したように、これら形態の異なるICはどれが良いとは一概にいえません。したがって、モーターを設計する際に、そのモーターが重要視する項目(前述の観点など)を満たすには、どの形態が最適であるかを考えて選定する必要があります。
続いて、各機能部の説明をしていきます。
コントローラー
一般にICは、下に示すような内部構造となっています。内部にあるチップは、リード(端子)とワイヤーで接続されています。チップ上にはアナログ回路とロジック回路と呼ばれる回路が作られています。アナログ回路がICの外との信号の受け渡しや、電源生成、クロック信号生成などを行い、ロジック回路はモーター駆動信号の生成などの処理をしています。

下に、モーターのコントローラー(コントロールIC)の端子ピンや回路の例を示します。この例ではホール信号入力仕様のコントロールICを示しています。
まずは主な端子ピンの機能とアナログ回路についてです。

次にロジック部です。ロジック部は、ロータ位置信号やDuty指令を元にPWMパルスやFG信号を生成する回路です。

コントローラーに入力されるDuty指令には下に示すようないくつかの仕様があります。これらの信号をDuty指令処理のブロックでデジタル信号に変換し使用します。ただしDuty指令のデジタル化はひとつの例です。デジタル化せず、方形波をPWMパルスとして使用するコントローラーもあります。

出力のFG信号は、モーターの回転数を外部に伝えるための信号です。回転数に応じて周波数が変化するパルス信号となっています。具体的には、下図のような仕様のものが使われています。

パワートランジスタ
ここでは、パワートランジスタ部を構成するトランジスタとしてまずバイポーラトランジスタ、MOSFET、IGBTの特徴比較を示します。次いでMOSFETのオン/オフ動作について説明していきます。
バイポーラトランジスタはベースに電流を流すことでオン状態となる電流駆動型のトランジスタです。主な損失は\(V_{CE}\)電圧にコレクタ電流をかけた電力となりますが、オン状態を維持するためにベース電流を流し続ける必要があり、その電力を消費するのが難点です。また、スイッチング(SW)速度は低速であるため高い周波数のPWM駆動には向いていません。
MOSFETはゲートに電圧を印加することでオンする電圧駆動型のトランジスタです。主な損失としてオン抵抗(Ron)にドレイン電流の2乗をかけた電力を消費します。ゲートに電流を流し続ける必要がないことと、スイッチング速度が速いことが利点ですが、ドレイン電流が大きくなると2乗で損失が増えるのが難点です。
IGBTはバイポーラトランジスタとMOSFETの良いところを持たせたトランジスタです。電圧駆動型なのでゲート電流をあまり消費せず、オンしている際の損失はコレクタ電流の1乗に留まります。ただし、スイッチング速度は中速です。
これらのトランジスタのどれを使用するかの判断基準として、損失の大小比較があります。上記したようにMOSFETのオン抵抗損失は電流の2乗で増加するため、電流の大きさによってMOSFETの損失とIGBTの損失の大小関係が入れ替わる傾向にあるからです。このため、MOSFETのRon×電流とIGBTの\(V_{CE}\)の大小関係を境として、小電流のモーターではMOSFET、大電流を必要とするモーターではIGBTが用いられます。

次に、MOSFETのオン/オフ動作を、nチャネル型を例に説明します。ここでは、前提として下図に示すように、巻線電流は上下のもう一方(説明の対象でない方)のトランジスタを介して、既に流れている状態であるとします。

MOSFETはゲートにかかる電圧で状態が変化します(下図参照)。ゲート電圧がソース電位に対して、しきい値以上に上昇すると、巻線に流れている電流が徐々にこのMOSFETを通って流れ出します。そして元々巻線に流れていた電流がすべてこちらのMOSFETを流れるようになった後、DーS間電圧が下降してトランジスタはオンの状態となります。オフはその逆の動作をします。
下図の波形は、ゲート電圧\(G\)とドレイン電流\(I_d\)、ドレインソース間電圧\(V_{ds}\)を、横軸を時間で示しています。ゲート電圧の変化に伴い\(I_d\)と\(V_{ds}\)が徐々に変化していくことが分かります。この電流\(I_d\)と電圧\(V_{ds}\)の変化の速度(スイッチング速度)はゲート電圧の変化量が関係します。そのため、このスイッチング速度を調整したい場合には、下図のようにゲート部分にゲート抵抗\(R_g\)、ゲートコンデンサ\(C_g\)を接続し、ゲート電圧の変化を調整できるようにします。
これらのスイッチング速度は、第8話の「スイッチング損失」や第9話の「電磁ノイズ」、第7話の「デッドタイム」に関わってきます。スイッチングの速度が速ければ損失やデッドタイムは小さくできる傾向にありますが、電磁ノイズは増えることが懸念され、遅ければ逆となります。このようにスイッチング速度はパワートランジスタ部を設計する上で考慮すべき特性となります。

レベルシフト
レベルシフト回路は、コントローラーからのゲート指令信号を、パワートランジスタがオン/オフできる電位及び電流に変換する回路です。前述のとおりパワートランジスタとして用いるMOSFETは、ゲート端子の電圧が変化することでオン/オフします。この動作には、適切な電圧と充放電の電流が必要となりますが、コントローラーの出力回路は一般にその電位や電流供給能力を満たしていません。そこで、その供給レベルの調整をするのがレベルシフト回路です。
レベルシフト回路には、接続する上側のパワートランジスタの種類の違い(Pチャネル、Nチャネル)により下の図のように大きく2種類の構成があります。

構成は2種類ありますが、下側のパワートランジスタはNチャネルで共通であるため、下側部分のレベルシフト回路で行うことは同じです。コントローラーからの信号をパワートランジスタが十分にオン/オフする電圧振幅の信号に変換し、電流供給能力も備えた回路とします。
上側トランジスタ用の回路は2種類の回路で大きく異なります。まず、上側パワートランジスタがPチャネルMOSFET(P-MOS)の場合、レベルシフト回路の出力であるゲート信号がVM電圧(上図参照)と同電位でトランジスタがオフし、しきい値を超えて下の電位になるとオンします。この場合の回路の例を上図に示します。図中のP-MOSのゲートの下側についたトランジスタがオンすると、ゲート電位が下がってP-MOSがオンし、ゲート下のトランジスタがオフすると、抵抗によってゲート電圧はVM電位に吊り上がるのでP-MOSはオフします。
この回路はVM電圧以上の電源電圧をつくる必要がないので、レベルシフト回路としては比較的簡単な構成であるのが利点です。しかし、パワートランジスタのP-MOSがNチャネルMOSFET(N-MOS)に比べて高価になることが多いことや、上側と下側のトランジスタの特性が一致しないのが難点です。
上側トランジスタがN-MOSの場合、上側のパワートランジスタをオンさせるためにVM+αの電源が必要になります。この電圧はモーター回路内で生成するのが一般的で、それにはチャージポンプやブートストラップといった昇圧回路を用います。また、上側N-MOSのゲートにつながる回路は巻線電圧を基準としたフローティング回路となります。よって、上の図中のHINの論理をこのフローティングの回路に伝達する回路が必要になります。このように、上側トランジスタがN-MOSの場合は複雑な回路構成となりますが、上下のパワートランジスタを特性が同等のN-MOSに統一できるのが利点です。
この記事のポイント
・モータードライバーは、モーターに求められる性能を考慮して設計する必要がある。ここでの性能とは、モーターの効率や騒音、信頼性、使い勝手などである
・モータードライバーは、コントローラー部とパワートランジスタ部、レベルシフト部で構成されている。
・モータードライバーICは、上記各部ごとの単体の機能を持つものやすべてが搭載されたものなどがあり、その構成はさまざまである。
・コントローラーは、ブラシレスモーターを回す制御信号をパワートランジスタのオン/オフ指令として出力するものである。
・パワートランジスタはモーターの巻線に電力を供給するスイッチの役割を持つ電子部品である。
・パワートランジスタのスイッチング特性は損失や信頼性に関わる重要な設計項目である。
・レベルシフト回路はコントローラーの出力信号を、パワートランジスタを動作させるために必要な電圧及び電流に変換する回路である。



スギケン先生のモーターライブラリー
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- 【第4話】急接近!?二人の新たな共通点
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- 【第6話】テスト対決!一ノ瀬と二宮の真剣勝負!
- 【第7話】まだこれから!一ノ瀬たちのモータードライバー道場
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