IGBTパワーデバイス|応用編
IGBT IPM:保護機能と動作シーケンス IGBT IPMのアナログ温度出力機能(VOT)
2023.07.25
この記事のポイント
・VOT出力は、LVIC部の温度をアナログ電圧に変換して出力する機能で、主に想定以上の温度上昇が生じた場合の保護のための温度モニタを目的としている。
・IGBT IPMの高精度な温度モニタにはサーミスタを用いるのが一般的だが、BM6337xS/BM6357xSシリーズはサーミスタと同等の高精度を実現しているのでサーミスタの代替として検討可能。
・VOT出力はLVIC部の温度出力なので、IGBTやFWDチップの急激な温度上昇には追従できない。
・したがって、放熱ファンの故障などによる温度上昇や過負荷継続時の出力制限といった、従来ヒートシンクに取り付けて使用していたサーミスタと同様の目的、方法での使用が推奨される。
・低電圧マイコンをVOT出力の処理に使う場合、VOT電圧がマイコンの電源電圧を超えないようにクランプ回路を設置する。
・VOT電圧がマイコンの電源電圧を超えるような設計が必要な場合は、VOT出力を抵抗分圧する方法がある。
今回は、4つ目の「アナログ温度出力機能(VOT)」の説明になります。
- 短絡電流保護機能(SCP)
- 制御電源電圧低下時誤動作防止機能(UVLO)
- 熱遮断保護機能(TSD)*BM6337xSのみ搭載
- アナログ温度出力機能(VOT)
- エラー出力機能(FO)
- 制御入力(HINU、HINV、HINW、LINU、LINV、LINW)
アナログ温度出力機能(VOT)
VOT出力は、LVIC(Low Side Gate Driver)部の温度をアナログ電圧に変換して出力します。主に想定以上の温度上昇が生じた場合の保護のための温度モニタを目的としています。
一般に、精度が高い温度モニタが必要な場合は外付けのサーミスタが用いられますが、BM6337x/BM6357xシリーズの温度モニタ精度は、多くの一般品が±5%精度なのに対して±2%が保証されており、サーミスタと同等の高精度を実現しているのでサーミスタの代替として検討可能です。
アナログ温度出力機能に関する注意点
機能や仕様の説明に入る前に、アナログ温度出力機能に関する重要な注意点を述べます。基本的に保護や安全確保に利用する機能なので正確な理解が必要です。
BM6337x/BM6357xシリーズは、LVIC部に温度検出素子を内蔵しており、LVIC部の温度をアナログ電圧に変換して出力します。IGBTやFWD(還流ダイオード)などパワーチップの発熱は、外部ヒートシンクやモールド樹脂を介して伝わるので、モータロックや短絡などによるIGBTチップの急激な温度上昇には、LVICの温度上昇は追従できません。
したがって、この機能は、放熱用ファンの停止のような放熱系の故障などによる温度上昇や過負荷継続時の出力制限といった、従来ヒートシンクに取り付けて使用していたサーミスタと同様の目的、方法での使用が推奨されます。
なお、BM6357xSシリーズは熱遮断保護機能(TSD)を搭載していないので、自身で温度保護動作はできません。VOT出力がユーザー設定の温度保護レベルに達した時は、システム側でスイッチング動作をただちに停止するなどの保護が必要です。BM6337xSは、熱遮断保護機能を搭載しているので、自身で温度保護動作を行います。
温度出力端子(VOT端子)の仕様
VOT出力は電圧出力です。LVICの温度を内蔵の温度検出素子にて測定、オペアンプで増幅して、VOT端子に出力する構成になっています(図はVOT出力にRCフィルタを設置した場合の例)。下表はVOT電圧の規格値です。LVIC温度=90℃の条件で、前述のように±2%以内の精度が保証されています。
| 項目 | 記号 | 規格値 | 単位 | 条件 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 最小 | 標準 | 最大 | ||||
| VOT電圧 | VOT | 2.72 | 2.77 | 2.82 | V | LVIC温度=90℃ |
| 0.93 | 1.13 | 1.33 | V | LVIC温度=25℃ | ||

VOT出力電圧は、LVICの温度に対し線形に変化するので、電圧値から温度への換算・補正は容易です。以下のグラフは、LVIC温度に対するVOT出力電圧の変化を示しています。また、青線は規定条件の温度における誤差範囲を示しています。なお、プルダウン抵抗に関する注意書きに関しては後述します。

次にVOT出力の電流定格を示します。VOT出力は主にマイコンのA/Dコンバータの入力に接続されます。A/Dコンバータの入力がドライブ電流を必要とする場合は、それを満足する出力側(この場合VOT出力)のソース電流が必要です。いずれにしても、接続先入力端子の電流仕様の確認は必要ですので、下記定格値を元に検討してください。
| 項目 | 最小値 | 単位 | 条件 |
|---|---|---|---|
| ソース電流定格( Note 1) | 1.7 | mA | Tc=-25~100℃ |
| シンク電流定格( Note 2) | 0.1 |
(Note 1) VOT端子から流し出す電流
(Note 2) VOT端子に引き込む電流
室温以下でVOT出力を使用する場合
LVICの温度が室温(25℃)より低い時にVOT出力の線形性が必要な場合、VOT端子とグラウンド(GND)間に5.1kΩのプルダウン抵抗の設置を推奨します(下図および前出のグラフ参照)。

前出のグラフの書き込みにあるように、5kΩのプルダウン抵抗を設置しない場合、0.8V以下は出力飽和の可能性があります。つまり有効な出力ではありません。ただし、5kΩのプルダウン抵抗を設置した場合でも、0.2V以下は出力飽和の可能性があることに留意してください。
また、プルダウン抵抗を設置する場合は、VOT出力電圧/抵抗値程度の電流がLVICの消費電流として常時余分に流れることになります。過熱保護のためだけにVOT出力を使用し、室温以下のVOT出力が不要な場合は、プルダウン抵抗は不要です。
VOT出力の処理に低電圧マイコン使用する場合
VOT出力の処理に低電圧マイコンを使用した場合、温度が上昇した際のVOT出力がマイコンの電源電圧を超える可能性があります。VOT出力は、先に示した規格値から、LVIC温度90℃において最大2.82Vになります。3.3Vマイコンなどを使用する場合はマイコンの保護のため、VOT端子とマイコンの電源の間にクランプダイオードの設置を推奨します(下図参照)。

VOTによる保護設定電圧がマイコン電源電圧を超える設計が必要な場合
低電圧マイコンを使用した場合、VOTによる保護設定電圧がマイコン電源電圧以上になるような設計が必要な場合、VOT出力を抵抗分圧してマイコンのA/Dコンバータに入力する方法があります。その場合は、分圧抵抗値の合計が5kΩ程度となるように設定してください(下図参照)。

前述した保護用のクランプダイオードの設置は、この方法を取る場合VOT出力が分圧され、基本的にマイコンの電源電圧以上には上がらないと考えられるため不要と考えられますが、設置の要不要は設定した分圧比によって判断してください。
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