IGBTパワーデバイス|応用編
IGBT IPM:保護機能と動作シーケンス IGBT IPMの短絡電流保護機能(SCP)
2022.12.27
この記事のポイント
・短絡電流保護機能(SCP)は、IPM外部にシャント抵抗を接続し、抵抗に発生する電圧をCIN端子へフィードバックする回路による。
・CIN端子には、誤動作防止のためRCフィルタが必要。
・短絡電流保護は下アームに対してのみ動作する。
・短絡電流保護が作動した場合、即座に動作停止し異常状態を回避する必要がある。
・シャント抵抗値とRCフィルタの時定数は提示された式に基づき、推奨値を目安に設定し、最終的には実機での動作確認を行い決定する。
まずは1つ目の、IGBT IPMの短絡電流保護からです。
- 短絡電流保護機能(SCP)
- 制御電源電圧低下時誤動作防止機能(UVLO)
- 熱遮断保護機能(TSD)*BM6337xSのみ搭載
- アナログ温度出力機能(VOT)
- エラー出力機能(FO)
- 制御入力(HINU、HINV、HINW、LINU、LINV、LINW)
IGBT IPMの短絡電流保護機能(SCP)
IPM外部にシャント抵抗(電流検出用抵抗)を接続し、抵抗に発生する電圧をCIN端子へフィードバックすることで短絡電流保護(SCP:Short Circuit Protection)が可能になります。保護動作に入ると、下側アーム全相のIGBTをオフし、FO信号を出力します。スイッチング時のリカバリ電流やノイズによる誤動作を防止するため、CIN端子入力にはRCフィルタ(下図点線丸囲み部のR2とC9)を設置してください。時定数は1.0µsを推奨します。

短絡電流保護機能の動作シーケンス(外付シャント抵抗、RC時定数回路による保護)
以下に短絡電流保護(SCP)の動作シーケンスとタイミングチャートを示します。動作説明のa1~a9は、タイミングチャートに示されたそのポイントの動作になります。
- a1:通常動作においてIGBTがオンすると出力電流Icが流れる
- a2:過電流検出(SCP)トリガ。RC時定数は2µs以内(1.0µs推奨)に電流遮断するよう最適遮断時間を設定
- a3:下側アーム全相のゲートを遮断(ソフトターンオフ)
- a4:下側アーム全相のIGBTをオフ
- a5:FO出力(45µs Min)、SCP=Hが45µs以下の場合。SCP=Hが45µs以上では、SCP=Hの期間FOを出力する(FO=L)
- a6:LIN=L
- a7:LIN=HでもSCP=Hの間はIGBTはオフ
- a8:FO出力終了(Hに戻る)。LIN=H(点線)でSCPがHからLになっても、次のLIN立ち上がりエッジまではIGBTはオフ状態(各相へのLIN入力で相ごとに通常状態に復帰する)
- a9:通常動作。IGBTオンし出力電流Icが流れる

※注意事項
- ・短絡電流保護は下アームに対してのみ動作します。
- ・短絡電流保護が動作し、エラー出力が発生した場合、即座に動作停止し異常状態を回避してください。
短絡保護のシャント抵抗値の設定
前出ブロック図の点線丸囲み部「Shunt Resistor」(以下シャント抵抗)の抵抗値の設定方法です。シャント抵抗値RSHUNTは短絡電流保護トリップ電圧VSCと保護電流設定値ISCPから次式で設定します。
![]()
ISCPの最大値は、シャント抵抗のばらつきやVSCのばらつきを考慮して、IGBT飽和電流の最小値以下となるように設定する必要があります。IPMの短絡保護推奨設定値は、定格電流の2.7倍以下となります。
例として、BM63375SにおいてISCPを54A(定格電流20A×2.7)とした場合の設定方法を以下に示します。VSCのばらつき(Tj=25℃、VCC=15V)を下表に示します。
| 項目 | 記号 | 規格値 | 単位 | 条件 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 最小 | 標準 | 最大 | ||||
| 短絡電流保護トリップ電圧 | VSC | 0.455 | 0.480 | 0.505 | V | |
シャント抵抗値RSHUNTと短絡電流保護設定値ISCPの関係は、ばらつきを考慮した場合、下記のようになります。

(3)より、
![]()
シャント抵抗のばらつきを±5%とすると、
![]()
以上より、Tj=25℃、VCC=15VでのISCPの動作範囲は次の表のようになります。
| 項目 | 最小 | 標準 | 最大 |
|---|---|---|---|
| RSHUNT設定範囲 | 9.35mΩ | 9.84mΩ | 10.33mΩ |
| ISCPの動作範囲 | 44.0A | 48.8A | 54.0A |
外部配線の寄生インダクタンスや寄生容量に起因する共振波形により、設定値より低い電流で保護機能が作動することがあります。最終的には実機での詳細評価の上、シャント抵抗値の調整をする必要があります。
短絡保護のRC時定数の設定
「IGBT IPMの短絡電流保護(SCP)回路」の項で述べたように、シャント抵抗に発生するノイズによる短絡電流保護回路の誤動作を防止するため、CIN端子入力にはRCフィルタ(下図点線丸囲み部のR2とC9)が必要です。RC時定数τは、ノイズ印加時間とIGBT負荷短絡耐量から設定します。τ=1.0µsを推奨します。
シャント抵抗にVSCレベルを超える電圧が発生した後、RCフィルタ回路を介しCIN端子にVSC電圧が印加されるまでの時間t1は、次式で算出します。

また、CIN端子がVSCレベルに到達してからIGBTのゲートが遮断されるまでには、下記に示すIPM内部遅延時間t2を要します。
| 項目 | 最小 | 標準 | 最大 |
|---|---|---|---|
| IPM内部遅延時間 | – | – | 0.65µs |
したがって、短絡発生からIGBTゲートが遮断されるまでの時間ttotalは以下になります。
![]()
実機での詳細評価の上、ttotalがIGBT負荷短絡耐量以内に収まるようにRC時定数を決定してください。
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