この記事のキーポイント
・ICのデータシートなどには、一般に熱抵抗データが提示されているが、ICの種類やメーカーによって内容に違いがある場合がある。
・熱抵抗は実装基板条件によってかなり異なるので、測定条件は必ず確認する。
前回は熱抵抗データに関して、関連するJEDEC規格や測定環境などについて説明しました。今回は、実際の熱抵抗データの例を示します。
実際の熱抵抗データ例
多くの場合ICのデータシートには、そのICの熱抵抗に関する情報が示されています。ただし、ICの種類、例えば信号処理目的で消費電力が少ないオペアンプと、電力供給が目的で熱設計が重要になる電圧レギュレータでは、提示されている熱抵抗の種類や設定が多少異なることがあります。また、ICメーカーによっても違いがあります。
以下に一例として、500mA出力LDOリニアレギュレータのデータシートに記載されている熱抵抗情報を示します。
このICには2種類のパッケージが用意されているので、各パッケージ(TO263-5、TO252-J5)の熱抵抗が示されています。ちなみに両方ともにフィンが付いたパワー系の5ピン表面実装パッケージです。
記載内容を確認して行きます。この熱抵抗データはNote 1が示すように、前回説明したJESD51-2A(Still-Air)に準拠しています(赤枠部分)。
提供されている熱抵抗は、以下の2種類です。
・ジャンクション-周囲温度間熱抵抗:θJA(℃/W)
・ジャンクション-パッケージ上面中心間熱特性パラメータ:ΨJT(℃/W)
また、各熱抵抗は、1層基板に実装した場合と4層基板に実装した場合の2つの基板条件における値が示されています。1層基板はNote 3にあるようにJESD51-3 に準拠した基板で、4層基板はJESD51-5および7 に準拠した基板です(Note 4)。各基板の条件は表に記載があります。
熱抵抗と実装基板の関係
先に示した例では、熱抵抗の条件としてJESD51規定の実装基板条件が明示されています。これは、熱抵抗はICのパッケージだけで決まるわけではなく、実装する基板条件が大きく影響することを意味しています。近年は表面実装パッケージが非常に多く利用されていることもあり、ICの熱抵抗を考える上で実装する基板による放熱(熱抵抗の低減)を加味することは必須です。パッケージだけの熱抵抗で熱計算を行うのは現実的ではありません。
このグラフは、各熱抵抗(θJA、ΨJT)と放熱用銅箔面積の関係を示しています。測定に使ったパッケージは裏面放熱フィン付きの8ピンSOPタイプで、銅箔面積が15.7mm2から1200mm2までのデータです。他に要素として基板層数や材料、銅箔厚などがありますが、それらは同じとして銅箔面積と熱抵抗の関係をイメージしたグラフとして見てください。
この例では、ICのジャンクション(チップ)から実装基板を通じて周囲(大気)への熱抵抗となるθJAと銅箔面積の関係が顕著です。実際には、使用条件においてTjmaxを超えないように放熱に必要な(適正なθJAになる)銅箔面積を確保することになります。
逆の意味で、提示されている熱抵抗の条件が明示されていない場合は、必ず条件を確認する必要があります。条件によって熱抵抗が大きく異なることは、上記例の数値が示す通りです。
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