ブラシレスモーターの巻線電流と誘起電圧発生の原理について
2023.02.07
第4話目次
- ・ブラシレスモーターの特性
- ・ブラシレスモーター駆動の実際の信号波形
- ・ブラシレスモーターの巻線電流
- ・ブラシレスモーターにおける誘起電圧発生の原理
- ・ブラシレスモーターの誘起電圧波形
- ・ブラシレスモーターの誘起電圧波形を考慮した巻線電流
前回示したブラシレスモーター駆動の実際の信号波形で疑問をもった、①のU電流について説明します。
- ① U電流はなぜこのような波形になるのか?
- ② UH、ULの信号と波形は分かるが、拡大してみるとUHはパルス状(ON/OFFの繰り返し)になっている。
- ③ U電圧(U相巻線端子電圧)は、UHがパルス状の部分ではUHに合わせてパルス状となり、ULがONしている部分ではGND電位となるのは分かるが、UHとULがOFFの間の斜めの波形は何なのか?
- ④ 電源電流とは何を表しているのか? この電流もパルス状になっている。
「U電流」は、巻線電流です。この波形の説明については巻線電流と誘導電圧について理解する必要があるので、以下の4項目に分けて順に説明して行きます。
ブラシレスモーターの巻線電流
モーターの巻線に流れる電流は、巻線磁界の大きさ、ひいてはトルクの大きさを決める重要な要素です。したがって、電流がどのように決まるかをしっかり理解する必要があります。ここでは「ブラシレスモーターのタイミングチャートの作り方」で示した120度通電の電流波形を使って説明します。
120度通電の電流は、電気角360度(1電気周期)で6回切り替わります。具体的にはたとえば下図では、U相からV相へ流れていた電流が、U相からW相に切り替わっていると表現され、このような動作が6回行われます。

このような切り替わり部分では流れていた電流は一度落ち込んだ後に戻ったりします。また、他の相を流れている場合(たとえばV相からW相へ電流が流れている場合のU相)には電流は流れないのでゼロになったりします。電流マイナス側も同様です。
これが120度通電の電流波形が図のような波形となる一つの理由ですが、これだけでは説明できない部分があります。それは、たとえば図中の「U⇒V」の範囲で、一度大きくなった電流が一旦減少した後に再度増加している点です。なぜこのような波形になるのでしょうか?
この説明のために、コイル電流を決める理論について確認します。理想のコイルはインダクタンスで表わされますが、実際には抵抗値を持っているため、回路としては以下の図のように表現できます。この回路であれば、電圧を印加した場合には図のような電流波形となるはずであり、電流が一旦減ることはありません。

実はこのような増減する電流波形となる要因が、ブラシレスモーターの制御を難しくしているものの1つと言えます。その要因とはコイルの発電です。
モーターは電気エネルギーを機械的エネルギーに変換するものと説明してきましたが、永久磁石を使ったモーターは外力を使って回せばその機械的エネルギーを電気エネルギーに変換できます。いわゆる発電機です。そして、この発電現象は外力で回っている時だけでなく、実は「自分で回っている時」にも発生します。この、永久磁石とコイルによって生じる発電の電圧を、誘導起電力、逆起電圧、誘起電圧、などと呼びBEMF(back electromotive force)と表記することもあります。ここではこれを「誘起電圧」と呼ぶことにします。
この誘起電圧が、巻線電流が増減する要因となります。
ブラシレスモーターにおける誘起電圧発生の原理
ブラシレスモーターはロータが回ることでコイル(巻線)に誘起電圧が発生します。この誘起電圧はモーターの特性に様々な影響を与えるので、巻線電流と同様に、この誘起電圧についても理解しておく必要があります。
まず、学校の物理などで習った「電磁誘導」を思い出してください。コイルは磁界(磁束)の変化を妨げようとします。たとえば、下図のようにコイルにNが近づくとコイル内を通る磁束の量が増えていくので、それに反発する磁界を発生させる向きにコイル電流が流れます。この電流により、コイルの両端に電圧が発生します。反対にNを遠ざけると今度は、コイルは磁界を維持する方向に働くので、近づけたときは逆向きの電流、電圧が発生します。この電圧が発生する現象を電磁誘導と言います。この時の電流は誘導電流と呼ばれ、電圧はここで使っている誘起電圧の他、誘導起電力、逆起電圧などとも呼ばれます。

※図中の磁石磁界の矢印は磁界の大きさの変化を表現している。コイル内に図のような大きさのムラが発生するわけではない。
ブラシレスモーターでは、磁石が近づいたり遠ざかったりするというよりは、ロータが回転することでコイルを通る磁束が変化し、その変化量に応じた誘起電圧が発生します(上図右側)。
コイル(ティース)を通る磁束の変化量を考える場合、ロータの表面の磁束量が場所によって様々な大きさとなっていることを知っておく必要があります。磁束密度がほぼ均一のものもあれば、下図のように大きさが周方向に正弦波状に分布しているものもあります。このようなロータを「正弦波着磁のロータ」などと呼びます。この着磁の場合、ロータが回っていくと上図右側のような磁束量変化が起こります。

ブラシレスモーターの誘起電圧波形
ブラシレスモーターの誘起電圧は、コイルを通る磁束の変化が電圧として現れるものです。ここでのコイルを通る磁束とは、コイルが巻かれたティースに入る磁束のことです。
最初に、この「ティースに入る磁束」について考えます。モーターの磁石と巻線コイルは下図のような位置関係にあります。よって、それぞれのティースにはそのティースと対面する磁石部分の磁束が通っていくと考えることができます。

それでは、図のような表面磁束(2パターン)の場合を例に、入る磁束の量を考えてみます。
図では、図上側の構造図に示す「表面磁束表示ポイント」の位置で対面するロータの表面磁束の大きさを、ロータの1回転360度分にわたって示しています。また、ティースに入る総磁束量も計算し、同様に360度分を示してあります。この総磁束量は、ティースが対面している部分の磁石の磁束(図中、ティースに入る磁束量範囲)を足し合わせて計算しています。よってロータが回り、位置が変われば磁束量は変化します。
たとえば、0度のロータ位置ではティースと対面する磁極はNとSが同量なのでティース磁束量はゼロとなり、90度の位置ではNの中心部分と対面し、ティース磁束量は最大になります。360度分でこれを算出すると、正弦波着磁ではティース磁束量(総磁束量)も正弦波になります。
そして、このティース磁束量の変化(微分)が誘起電圧になります(微分時に符号はマイナスをつけています)。よって、対面する表面磁束とは90度位相が異なるイメージになります。
着磁波形については、大きく分けると、正弦波、矩形波、台形波と呼ばれるものがあります。ここでは2つ目の例として台形波着磁のものを示します。ちなみに、上記で示した矩形波と今回の台形波との違いはNとSの切り替わり勾配ですが、明確な定義はありません。一般に勾配が比較的緩やかなものを台形波と呼んでいます。
台形波の場合、ティースに入る磁束量の波形は正弦波ではなくなります。その微分で計算される誘起電圧波形も図のような形状となります。台形波着磁の誘起電圧に関して注目すべき点は、着磁波形と誘起電圧波形が明らかに違う特徴を持っていることです。たとえば、台形波着磁は表面磁束のNとSが変化する部分の傾きが正弦波よりも急であるにも関わらず、その誘起電圧のプラスとマイナスの変化部分(ゼロクロス点)は正弦波より緩やかになっています。
誘起電圧の波形の違いは、様々なモーター特性および制御特性に影響を与えます(後述)。しかしながら、その形状は各モーターで様々である上、着磁波形とも一致しない(正弦波を除く)のでやっかいです。モーター制御での最初のステップとして、制御対象とするモーターの誘起電圧波形がどのような波形であるかを意識し確認することが大切です。
次回は「ブラシレスモーターの特性 その1」の最後の項目となる、誘起電圧が巻線電流に与える影響について解説します。
この記事のポイント
・モーターの巻線に流れる電流は、巻線磁界の大きさ≒トルクの大きさを決める重要な要素である。
・線間(例:U相→V相)を流れる電流は、理論的には単に流れるか流れない状態を示すはずだが、実波形では一度大きくなった電流が一旦減少した後に再度増加する動きを示す。
・これはブラシレスモーターを構成するコイルと永久磁石(ロータ)に発電作用によるもので、これを、誘導起電力/逆起電圧/誘起電圧などと呼び、BEMF(back electromotive force)と表記する場合もある。
・ここでは「誘起電圧」と呼ぶことにする。
・ブラシレスモーターはロータが回ることでコイル(巻線)に誘起電圧が発生し、誘起電圧はモーターの特性に様々な影響を与えるので理解が必要。
・コイルと永久磁石の位置関係により電流・電圧が発生する現象を電磁誘導と言い、この時の電流は誘導電流と呼ばれ、電圧は誘起電圧の他、誘導起電力、逆起電圧などとも呼ばれる。
・コイル(ティース)を通る磁束の変化量を考える場合、ロータの表面の磁束量が場所によって様々な大きさとなっていることを知っておく必要がある。
・磁束密度がほぼ均一のもの(均一着磁/矩形波着磁)もあれば、大きさが周方向に正弦波状に分布しているロータ(正弦波着磁)もある。
・モーターの誘起電圧はコイルを通る磁束の変化が電圧として現れるもので、ブラシレスモーターの場合コイルが巻かれたティースに入る磁束の変化が該当する。
・このティース磁束量の変化(微分)が誘起電圧となる。
・正弦波着磁ではティース磁束量(総磁束量)も正弦波になるが、台形波着磁の場合は正弦波ではなくなり、誘起電圧波形が明らかに異なる。
・モーター制御での最初のステップとして、制御するモーターの誘起電圧波形を意識することが大切。
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