正弦波駆動のトルク脈動、正弦波電流のタイミング・位相変化、進角制御(進角調整)、正弦波駆動のさまざまな波形について

2023.06.06

今回は正弦波駆動のトルク脈動について説明します。

第7話目次

ブラシレスモーター:正弦波駆動のトルク脈動

正弦波駆動に関する説明を進めていますが、このテーマは120度通電のようなトルク脈動が発生しない通電方式として正弦波駆動を挙げたのが発端です。今回は、120度通電と同様のプロセスで正弦波駆動のトルク脈動を考えてみます。トルクを求める式は120度通電と同様で、以下の通りです。

総合トルクと相トルク計算式

まず、相トルクについてです。U相巻線に流れる電流は正弦波形状なので、それに合わせてU相の電磁石磁力は変化します。これとロータ(永久磁石)との位置関係θからsinθを求め、U相のトルクを計算すると下図のような正弦波形状となります。正弦波形状ですが、周期は2分の1になり、全体的に持ち上がった波形となります(中点がゼロでなく、最下点がゼロ付近)。

正弦波駆動の巻線電流、総合トルク、相トルク。

正弦波駆動でも、ある1つの相のトルクだけをみるとこのように脈動しています。しかしながら、3相分を合計すれば総合トルクは一定となります。これは、120度ずつずれた3つの正弦波を足すとゼロになることから分かります。正弦波状に変動している部分はゼロとなり、各相の持ち上がった部分のみが足されて一定のトルクとなります。

\( \text{相トルク} = A \cdot \text{磁力} (\text{=電流}) \cdot \sin(\theta) \)
     \( = A \cdot \sin(\theta) \cdot \sin(\theta) \)
     \( = A \cdot \left(-\frac{1}{2} (\cos(\theta+\theta) – \cos(\theta-\theta))\right) \)
     \( = -\frac{A}{2} (\cos(2\theta) + \frac{A}{2} \)
     \( \rightarrow \sin(2\theta) + B \)

※「→」の行について
・cosとsinの区別が重要でないのでsin2θと置換え。
・-A/2もここでは重要でないので削除
・A/2はBで置換え

\( \text{総合トルク} = \text{Uトルク} + \text{Vトルク} + \text{Wトルク} \)
     \( = (\sin(2\theta) + B) + (\sin(2(\theta+120)) + B) + (\sin(2(\theta+240)) + B) \)
     \( = \sin(2\theta) + \sin(2(\theta+120)) + \sin(2(\theta+240)) + 3B \)
     \( = \sin(2\theta) + \sin(2\theta+240) + \sin(2\theta+480) + 3B \)
     \( = \sin(2\theta) + \left(-\frac{1}{2}\sin(2\theta)\right) + \left(-\frac{\sqrt{3}}{2}\cos(2\theta)\right) + \left(-\frac{1}{2}\sin(2\theta)\right) + \frac{\sqrt{3}}{2}\cos(2\theta) + 3B \)
     \( = 3B \)

正弦波通電(正弦波駆動)」の記事では、3相の合成の巻線磁界がロータとの角度を保って一定の大きさで回ればトルク脈動がなくなるという考え方を示しました。このトルク脈動がゼロとなることは、上記のプロセスで確認しても成り立っていることが分かります。

ところで、ここでは巻線電流の位相に関して、巻線電流のピークの位置でロータとの相対角度θが90度であり、電流がゼロのときにθが0度もしくは180度になるものとしてトルクの計算をしています。それは120度通電の場合と同様に、そのロータ磁石の位置でそのような電流となるように巻線端子に電圧を印加していると仮定したからですが、もしこれがずれたらどうなるのでしょうか?

ここまでのポイント

・正弦波駆動における相トルクは、各相の巻線に流れる電流は正弦波形状なので正弦波形状になる。

・ただし周期は2分の1になり、中点がゼロでなく最下点がゼロ付近で全体的に持ち上がった波形となる。

・120度ずつずれた3つの正弦波を合計すれば、正弦波状に変動している部分はゼロとなり、各相の持ち上がった部分のみが足されて一定のトルクとなりトルク脈動はなくなる。

ブラシレスモーター:正弦波電流のタイミング

前回示した正弦波電流の位相は、磁石との角度が90度のときに正弦波電流のピークが位置するものでした。その位置から角度がずれると、トルクにどのような変化が起こるのかを検証していきます。

前提条件として、U、V、W相のそれぞれの巻線電流の位相は一様に変化することとします。したがって、各相間の120度のずれは維持されます。

それでは、前回と同様に相トルクを計算してみます。電流位相がC度ずれたとすると、下記の式からトルクの持ち上がり量が変化(A/2→AcosC/2)することが分かります。このとき、cosCは1以下の値になります。よって位相がずれると持ち上がり量は減少することになります。

\( {相トルク} = A \cdot \text{磁力} (\text{=電流}) \cdot \sin(\theta) \)
     \( = A \cdot \sin(\theta (\theta – C)) \cdot \sin(\theta) \)
     \( = A \cdot \left(-\frac{1}{2} (\cos(\theta – C + \theta) – \cos(\theta – C – \theta))\right) \)
     \( = -\frac{A}{2} (\cos(2\theta – C) + A \cdot \cos(C)/2) \)
     \( = \sin(2\theta) + D \)

これを図示すると下図の波形になります。角度が30度ずれたとすると、上式のDは前回のBに対してcos30°で0.866倍となります。したがって、総合トルクも0.866倍に低下します。

正弦波駆動において電流位相がずれた場合のトルクの変化。

これは、合成磁力による総合トルク計算でも確認できます。電流が30度遅れ方向にずれていたとすると、上記の計算式でのθは60度になります。θが90度のときのsin90°=1に対し、sin60°で0.866倍です。

図中のθが90度と60度のときの2つの総合トルクの比較では、電流の大きさがほとんど変わっていないにも関わらず、60度の方の出力トルクが小さいことになります。言い換えると、モーターの効率が悪くなっていると言うことができます。また、I-T特性、ひいてはS-T特性もこの電流位相の変化の影響を受けることになります。

このように、総合トルクの変化の理由についてはさまざまな観点からの言い表し方があります。例えば、「合成磁力と磁石磁力の角度差θが90度でないためsinθが1以下になるから」と言えます。また、「相トルクにおいてマイナスとなる部分が発生しているため」とも表現できます。

正弦波電流のタイミングがずれることで効率が変化してしまうことは、モーター性能において重要な現象ですが、もう1つ重要なポイントとして、トルク脈動には変化が起きないことがあります。

ここまでのポイント

・電流位相がずれた場合、相トルクの持ち上がり量は減少する。したがって、総合トルクも減少する。

・トルクの減少はモーターの効率が悪くなっていると言い換えることができる。

・正弦波電流のタイミングがずれることで効率が変化するが、トルク脈動に変化は起きない。

次に、正弦波形状の電流を流す正弦波駆動では、電流の位相は印加する正弦波電圧とは基本的には同じにならないことを説明します。これは正弦波駆動において重要なポイントになります。

ブラシレスモーター:正弦波電流の位相変化

正弦波駆動における正弦波電流の位相ですが、例えば印加電圧の位相がそのまま電流位相となるなら制御は比較的簡単です。しかし実際の電流位相は印加電圧位相に対してさまざまな要因で変化します。以前示した通り、電圧と電流は以下の式で表されます。

\( V – V_{\text{bemf}} = R \cdot I + L \frac{dI}{dt} \)

この式から分かるように、電流の位相はインダクタンスや誘起電圧の影響を受けます。このことがモーター電流の制御を難しくしています。

以下に位相変化の例を挙げます。
<インダクタンス成分による位相遅れ>
巻線がインダクタンス特性を持っているため、正弦波電流は差電圧(印加電圧-誘起電圧)に対して遅れ側に変化します。この遅れの位相量は電圧の周波数、すなわちモーターの回転数によって変化するため、一定値として制御できないのが難点です。この遅れによりモーター効率は低下します。

正弦波電流の位相を変化させる要因:インダクタンス成分による位相遅れ。

<印加電圧位相で電流位相が変化>
印加電圧位相とは、誘起電圧に対する位相差のことです。印加電圧位相を進める(下図の左方向)と差電圧も進むので、電流位相が進みます。この特性を用いれば、上記のインダクタンス成分によって遅れる電流の位相を戻すことができ、モーター効率の低下を招かずに済みます。モータードライバーでは、この印加電圧位相を進める動作を進角制御と呼んでいます。

正弦波電流の位相を変化させる要因:印加電圧位相による電流位相の変化。

<印加電圧振幅で電流位相が変化>
上記の進角制御により電流位相を進めることができますが、進角量(進角値)と呼ばれる位相の調整度合いは、モーター効率の最適状態を維持する場合には一定値にはできません。これは、周波数変化によって電流位相の遅れ量が変わる、というだけでなく、例えば印加電圧の振幅が変わると差電圧の位相が変化し、電流位相に変化を与えるからです。これは、誘起電圧の大きさが変わっても同様です。

正弦波電流の位相を変化させる要因:印加電圧振幅による電流位相の変化。

モーターのトルク、効率に大きな影響を与える電流位相ですが、このように調整制御の複雑さからも重要視される特性です。 (※ここでは電機子反作用の説明は除く)

ここまでのポイント

・正弦波駆動における正弦波電流の位相は、印加電圧の位相がそのまま電流位相とはならない。

・その理由として以下が挙げられる。
 –インダクタンス成分による位相遅れ
 –印加電圧位相で電流位相が変化する
 –印加電圧振幅で電流位相が変化する

・電流位相はモーターのトルク、効率に大きな影響を与えるだけではなく、調整制御の複雑さからも重要視される特性。

ブラシレスモーターの進角制御(進角調整)

繰り返しになりますが、モータードライバーはロータの位置を検出し、それに応じた電圧を印加することでモーターを回します。そして、その電圧印加のタイミングとは最終的に巻線電流が作る巻線磁界(電磁石磁界)の大きさや向きを考慮したものでなければなりません。そのタイミング調整方法として進角制御があります。

進角の概念を説明する前に、電圧印加タイミングの基準の定義を確認しておきます。基準となるタイミングは、正弦波駆動なら誘起電圧と同位相の位置です。また、120度通電なら誘起電圧の中央と120度通電の波形の中央が一致する位置を基準位置とします。

進角制御は、この基準の位相(位置)に対して印加電圧の位相を進めて出力する制御です。よって、基準の位相を進角ゼロの位置とし、そこから進めた量を進角量(進角値)と言います。この進角制御は正弦波駆動のみでなく、120度通電の場合にも適用できます。

進角制御の概念。

進角調整をした場合のモータートルクの変化の例を下図に示します。図の上段は120度通電で進角0度と進角15度の比較、下段は正弦波駆動で進角0度と進角13度の比較をしています。

正弦波駆動と120度通電の進角制御の効果の比較。

まず、正弦波駆動では進角0度に比べて、進角13度の方の平均トルクが上がっていることが分かります。これは進角0度のときは電流が遅れ気味であり、進角されることで遅れが戻るからです。

120度通電でも進角調整により総合トルクが上がっていることが分かります。しかし、同時に脈動が大きくなっているのは懸念点となります。

また、このデータは次の2つのことも示しています。

  • 1) 正弦波に比べて120度通電は進角調整によるトルクの変化が小さい。言い換えると、120度通電は電流位相ずれに強い(効率悪化が少ない)とも言える。これは、120度通電には巻線に電流が流れていない部分があることが影響していると考えられる。
  • 2) 進角制御とは直接関係のない内容だが、同じような振幅の電圧を印加しているにも関わらず、正弦波の方がトルクを表す数値が低い(上図の例では、120度通電:40前後。正弦波駆動:30前半)。これは、120度通電と正弦波駆動とで巻線間にかかる電圧(線間電圧)の最大値が変わってくるため。

ここまでのポイント

・進角制御は、基準の位相に対して印加電圧の位相を進めて出力する制御。

・基準の位相を進角ゼロの位置とし、そこから進めた量を進角量(進角値)と言う。

・進角制御は正弦波駆動のみでなく、120度通電の場合にも適用できる。

・正弦波駆動では遅れた位相を戻すことで、平均トルクを戻す(上げる)ことができる。

・120度通電でも進角調整により総合トルクが上がるが、同時に脈動具合いが変化することに注意が必要。

ブラシレスモーター:正弦波駆動のさまざまな波形

巻線間にかかる電圧の大きさは、モーター制御において重要なポイントの1つです。モーターは所望の回転数とトルクで回ることが求められるので、その出力(回転数、トルク)が出せるようにモーターの磁石磁力や巻線仕様は設計されています。したがって、前述のような通電波形(ここでは120度通電と正弦波通電)の違いによる出力範囲の変化は、可能な限り回避することが重要です。ここでは最大出力が変わる理由と、出力が上がる正弦波駆動波形をいくつか紹介します。

まず、ここまで説明してきた正弦波駆動の波形を確認します(下図1段目右)。これは電源電圧の範囲内(図では0~100)で正弦波形状をそのまま作る方式で、ここでは純正弦波と呼ぶことにします。この形状の場合、最大で図のように下限が0で上限が100の正弦波となり、一見すると120度通電と同様に見えます(120度通電も下限が0で上限が100)。

駆動方法による線間電圧および相電圧の比較。120度通電、純正弦波駆動、尻正弦波駆動、3次重畳正弦波駆動、上下固定正弦波駆動、空間ベクトル正弦波駆動。

ここで、巻線電流を決める電圧について考えます。巻線電流は、各相の電位差によって流れます。したがって、電流の大きさ、つまりはモーターの出力を決めるのは線間電圧となります。

あらためて純正弦波と120度通電の線間電圧を比べてみると、電圧幅に違いがあります。120度通電は-100から100まで200の幅がありますが、純正弦波は-86.6から86.6で幅173.2となります。このことから、純正弦波での通電は120度通電に比べて出力範囲が狭い、電圧利用率が低いと言うことができます。これが前述の正弦波駆動のトルクが低かった理由です。

120度通電より静音性が高くなる正弦波駆動ですが、この電圧利用率が低いことはデメリットとなります。そのため、電圧利用率を高めた正弦波駆動の波形が多く考案されています。上図の2段目と3段目の4つが主な波形です。相電圧をみるとおよそ「正弦波」には見えないものも多いですが、線間電圧はともに歪みのない正弦波となります。4つとも最大の線間電圧は120度通電と同等です。

モータードライバーでは、図の「尻正弦波」の波形が広く使われています。これは、2相変調正弦波、下固定方式などとも呼ばれます。オシロで波形をみる際には、通電波形がどのようになっているかあわせて確認することが必要です。

さて、ここまでモータードライバーを使ってブラシレスモーターを回した際に見られる現象や回路動作について説明してきました。オシロスコープの波形、誘起電圧、モーターの回転数調整動作や電源電流、出力特性、トルク脈動、通電波形などについて説明しましたが、これらはモーターを回す上で知っておくべき基礎知識となります。

モーターを使用する場合、所望の出力特性(回転数、トルク)を得られるようにするのは当然ですが、そこに効率、静音性、信頼性が求められます。モータードライバー開発者はそのために開発、改善の研究を行います。ここで示した内容は、そのための最低限の基礎知識ですので、しっかり自分のものにしてください。

ここまでのポイント

・通電波形の違いによる出力範囲の変化は、可能な限り回避することが重要。

・巻線電流は各相の電位差によって流れるため、電流の大きさ=モーターの出力を決めるのは線間電圧となる。

・純正弦波での通電は120度通電に比べて出力範囲が狭い=電圧利用率が低いと言え、
これが正弦波駆動のトルクが低かった理由。

・電圧利用率が低いことはデメリットになるので、電圧利用率を高めた正弦波駆動の波形が多く考案されている。

・モータードライバーでは、尻正弦波(2相変調正弦波、下固定方式とも呼ばれる)が広く使われている。

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モーター機器の開発・設計、もう少し具体的には3相のブラシレスモータードライブ回路の開発・設計エンジニア、特にビギナーエンジニアの方々に向けた漫画を含めた入門講座をイメージした内容になっています。

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