ブラシレスモーターのタイミングチャートの作り方
2022.12.07
前回は、コントロールICから始まる回路動作からみた動作の説明をしました。この説明で、回路全体の動きは把握できたかと思います。それでは次のステップとして、信号がなぜそのようなタイミングになっているのかについて説明します。実は、モータードライバーの開発/設計において、例えばモーターを効率よく静かに回すなど、自分の思い描く性能を実現するタイミングチャートを作る(イメージ的には「創る」でしょうか)には、この方向での考え方が非常に重要です。
第3話目次
- ・ブラシレスモーターの駆動回路構成
- ・ブラシレスモーター駆動回路のタイミングチャート
- ・ブラシレスモーターの駆動タイミングチャートの作り方
ブラシレスモーターのタイミングチャートの作り方
まず知っておくべきことは、ロータ(永久磁石)に対してどの位置に電磁石の磁界を発生させるのが良いかということです。例えば左回りに回したいなら、永久磁石のNの左側に相当するところに電磁石のSを作ります。しかし、単にそれだけでは最適とは言い切れません。モーターはなるべく少ない電力(電気エネルギー)で必要とするトルク(力学的エネルギー)を出すことが求められます。それは磁石の磁力を強くするなどのモーターの素の特性にも影響されますが、永久磁石と電磁石の相対位置(角度)にも左右されます。よって、単に左側というだけでなく、正確にどの位置に電磁石を作れば良いかを知ることが重要となります。
永久磁石ロータと電磁石ステータが発生させるトルクについては、下の図のような理論が成り立っています。下図は、モーターが発生させるトルクが磁石磁界と巻線磁界(電磁石)の2つの磁界の相対角度θに依存し、sinθで計算されることを示しています(巻線が作る磁界と永久磁石が作る磁界の大きさは一定と仮定)。

理論的には、トルクが一番大きくなるのは磁界の相対角度が90度の時です。よって、ロータの磁石磁界方向に対して巻線磁界の方向は、この角度付近となるようにするのが良いということになります。
このことを踏まえて、取り得る条件から実際にどのようなタイミングで巻線磁界を発生させるのが良いかを考えてみます。まず、3つのホール素子の極性信号を使って、ロータ位置は電気角で60度ごとに区別できることは、「モーターの極数とスロット数、機械角と電気角とは」で説明しました。そして、巻線磁界は巻線端子に印加する電圧の組み合わせで6方向を作れることも、「ブラシレスモーター駆動回路のタイミングチャート」の「ブラシレスモーター駆動回路のタイミングチャート(2):電圧パターンによって作られる電磁石磁界」で示した通りです。このことから、6つのロータ位置(範囲)に応じて、ちょうど6つの方向の巻線磁界を選択できることが分かります。
それでは、一つ一つのロータ位置において、どのような相対角度の巻線磁界を作ればいいでしょうか? 大きなトルクを得ようと考えると、その相対角度範囲が60~120度の間の時が良いことになります。そしてロータが回転しその範囲外となったら、次の巻線磁界パターンへと移行させます(下図)。

この考え方を基に、以下に示すタイミングチャートを下から上へ見ていきます。これはつまり、ロータの位置と動きから、各信号がどのような状態であるか(どのような状態になっていなければならないか)を確認していくことになります。

以下、タイミングチャートの右わきにグレーの矢印で示した1~5についての説明です。
- 【1】 まず、ロータの位置に応じてU、V、Wの巻線の磁極性が決まります。図ではトルクが最も大きくなるロータ位置となっており、その前後30度の区間に同じ磁界を発生させることになります。
- 【2】 次に、その巻線磁界を作るための電流方向が決まります。それはそのまま巻線に印加する電圧の方向に相当します。例えばUをN極、VをS極とするためにUからVへ電流を流すのであれば、U相巻線の端子にはプラスを印加し、V相はマイナス(GND)とします。
- 【3】 そのように巻線に電圧を印加するには、U相の上側トランジスタとV相の下側トランジスタをONさせる必要があります。よって、UHとVLの信号をHiとします。この時、他の信号はLoとします。他のロータ位置も同様に考えてUHからWLまでの信号の論理を決めます。
- 【4】 そして、このUHからWLの6つの信号を図のように切り替えられるようにするには、元となるホール信号が図のような位置で変化するようにするのが良いということになります。ちなみに、ここでは各信号のHi/Loが切り替わる位置が重要であり、厳密に上図と同じホールU、V、Wの波形が必要というわけではありません。6つのロータ位置が分かれば他の論理組み合わせでも構いません)
- 【5】 このロータ位置でホール信号が切り替わるようにするには、上図の位置にホール素子を設置することになります。ここでの設置位置は、巻線に対する角度が重要です。径方向の位置は別に検討が必要です。
ブラシレスモーターのタイミングチャートやそれに合うホール素子の配置はこのように決めていきます。ブラシ付きモーターと同じような動作をするこのタイミングチャートは、ブラシレスモーターの駆動制御においては120度通電と呼ばれています。比較的シンプルな制御であるため広く用いられていますが、ブラシレスモーターの駆動制御としては他にも様々な通電パターンが考案されています。これは整流子による機械スイッチの構造とは異なり、コントロールICによって通電パターンの調整が行えるようになったからとも言えます。他の通電パターンについては別途説明します。
さて、ここまで3回にわたり、ブラシレスモーターの駆動回路構造とタイミングチャートについて説明してきましたが、イメージができましたでしょうか? 次からは、この120度通電でのモーター駆動動作に関してまだ説明していない実際のモーターの特性について、もう少し詳細を説明します。
この記事のポイント
・モータードライバーの開発/設計において、モーターを効率よく静かに回すなど、自分の思い描く性能を実現するタイミングチャートを作ることが重要になる。
・ブラシレスモーターを思うように回すには、タイミングチャートに基づき位置検出器(ここではホール素子)の配置位置も重要になる。



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