この記事のキーポイント
・熱抵抗θJAによるTJの見積もりは、消費電力PとTAの値が必要になる。
・計算式からTJを求め、TJMAX以内であることを確認する。
前回、TJの見積もりに関してθJAとΨJTを用いた基本計算式を示しました。今回は、例題を使ってθJAを使ったTJの見積もり計算例を示します。
θJAを使ったTJの見積もり計算例
例として、LDOリニアレギュレータBD4xxM2-CシリーズのBD450M2EFJ-Cを用います。仕様の概要とブロック図を示します。
・入力電源電圧:~42V |
HTSOP-J8パッケージ:4.90×6.00×1.00(mm) |
計算例
以下の条件設定から消費電力Pを計算します。
※VINはこのICではVCCと表記されています。
消費電力Pを求める式に値を代入します。
ここでは、周囲温度TAからTJを計算します。θJAは下記の基板に実装した状態を想定し、グラフからθJAを求めます。
グラフからθJAは48℃/Wとし、TAは85℃を想定し、この条件でTJを計算します。
先に示した仕様にあるように、このICのTJMAXは150℃なので、この条件は許容内の使用条件であることを判断できます。
もし、TJMAXを超える見積もりになった場合は、条件の変更が必要です。変更可能なのは、消費電力Pを減らす、周囲温度TAを下げる、熱抵抗θJAを下げる、といったことになりますが、入出力電圧や出力電流といった電気的仕様は必要条件なので一般に変更は困難です。TAは冷却の強化などで対応できる場合がありますが、機器の動作仕様として設定されている場合の変更は困難です。θJAを下げるには、実装基板の銅箔面積を広げることで対応できる場合があります。また、ICに複数種のパッケージが用意されている場合は、よりθJAの小さなパッケージを選択するアプローチもあります。いずれも、基板レイアウトの変更がともないますので、設計の段階で十分なTJの見積もりをしておくことが重要になります。
実測によるTJの見積もり
上記の計算は電源の設計条件を基にしていますが、ICがすでに基板実装されている場合には、消費電力Pを実測することで現実に近い条件でのTJの見積もりが可能です。以下に示すように、IINはICC+IOUTであることからVIN(VCC)×IINはICへの全入力電力で、出力の消費電力VOUT×IOUTを差し引いた値がICでの消費電力Pになります。
θJAによるTJの見積もり計算の例は以上です。基本的に消費電力の計算方法はICのデータシートに記載がありますので、データシートは必ず確認してください。
次回はΨJT使ったTJの計算例を示します。
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