DC-DCコンバータ|応用編
フローティング動作のリニアレギュレータを使った電源設計のポイント フローティング動作リニアレギュレータICの電源回路例
2022.12.13
この記事では、フローティング動作対応のリニアレギュレータICを題材に、電源回路設計の基本と実践的な注意点を解説します。
例として使うリニアレギュレータICについて
説明のために、ポピュラーなリニアレギュレータICである「BA1117」を例に使います。BA1117は、フローティング動作の可変出力低飽和(低ドロップアウト)レギュレータICで、LDOと呼ばれるタイプです。主な仕様とブロック図と示します。フローティング動作のリニアレギュレータは、グラウンド(GND)端子がない構成になっています。
- ・入力定格電圧:15V
- ・入力電圧範囲:VOUT+1.4V~10V
- ・リファレンス電圧:1.25V
- ・出力電圧設定範囲:1.25V~8.6V
- ・出力電流:1A
- ・ドロップアウト電圧:1.2V(1A時)
- ・出力電圧精度:±1%(外付け抵抗の精度含まず)
- ・出力電流:5mA *1~1A
- ・動作ジャンクション温度範囲:-20℃~+105℃
*1:電圧設定抵抗の電流を含む
※仕様値に関しては最新のデータシートで確認願います。

BA1117は、出力段にNPNトランジスタ用いたLDOで、ドロップアプト電圧(動作できる入力出力電圧差。詳細は後述)は1.2Vほどです。PNPトランジスタやMOSFETを出力段に用いたLDOのドロップアウト電圧は0.5V程度なので、「1.2VはLDO?」と言われるかもしれませんが、標準型(78xxなど)のドロップアウト電圧は2Vほどあるので、BA1117はLDOに分類されています。これらの詳細は、TechWebの「リニアレギュレータの基礎」を参照してください。
本章に関して、いくつか注意点があります。説明の中に、例えば「ドロップアウト電圧1.2V」のような規格値が出てきますが、必ずしも保証値(最大値や最小値)を示しているとは限りません。そのため、実際の設計の際には必ず最新のデータシートで確認願います。また、回路例などは一部を省略してある場合がありますので、あくまでも参考としてください。
フローティング動作リニアレギュレータICによる電源回路例
以下にBA1117で構成した代表的な電源回路と、BA1117のパッケージを示します。なお、このICの型番は正式には「BA1117FP」になります。

回路はいたってシンプルです。必要な外付け部品は、入力コンデンサCIN、出力コンデンサCOUT、出力電圧設定用抵抗器R1とR2の計4個で、いずれも小型のチップタイプが使用可能です。
BA1117のパッケージはTO252-3です。放熱性能を向上させるFIN(TABとも呼ぶ)を持つ表面実装パッケージで、1A出力クラスでは代表的なパッケージです。以下は各端子の機能です。
| 端子名 | 機能 |
|---|---|
| ADJ | 出力電圧設定端子 ADJ端子は、VOUT端子との間に基準電圧1.25Vを発生させ、VOUT端子とグラウンド間を抵抗分割することで、1.25Vから8.6Vの出力電圧を設定可能。 |
| VIN | 入力端子 入力端子を介しICに電源が供給される。ICの入力を安定化させるため、VINとグラウンド間にコンデンサを接続する。コンデンサは端子の近くに配置する。 |
| FIN=VOUT | 出力端子、放熱フィン 負荷に電力を供給する。この端子には発振を防ぐためVOUTとグラウンド間にコンデンサを接続する。FINはリードフレームを介してICチップに接続されており、放熱効率を高めるため銅箔面積の広いVOUTプレーンにハンダ付けすることを推奨。 |
フローティング動作リニアレギュレータICの出力電圧設定方法
例として使っているリニアレギュレータICのBA1117は、可変出力タイプです。可変出力タイプは、外付けの抵抗分圧器を使って、任意(通常は内部基準電圧源からICに定められた最大出力電圧まで)の電圧を設定します。なお、可変出力タイプの他に固定出力タイプもあります。これは、5Vや3.3Vなど一般的な標準電圧に合わせた分圧抵抗をIC内に集積したもので、通常外付け部品は入出力のコンデンサだけです。用途に合わせて、可変出力タイプと固定出力タイプを使い分けます。
BA1117は、1.25V~8.6Vの出力電圧設定が可能です。出力電圧は次式で求めることができます。
\(V_{\text{out}} = V_{\text{REF}} \times \left(1 + \displaystyle \frac{R_2}{R_1}\right) + I_{\text{ADJ}} \times R_2 \, \text{[V]}\)
VREF *1:基準電圧[V]=1.25V typ
IADJ:ADJ端子電流[A]=60µA typ

BA1117はVOUT端子とADJ端子との間に基準電圧1.25Vが出力されています。R1の電流I1は1.25V/R1で計算でき、R2の電流はR1の電流にADJ端子のバイアス電流IADJを加えたものになります。ADJ端子のバイアス電流は、60μA typ(120μA max)でR2を介してグラウンドへ流れます。ADJ端子のバイアス電流によって生じる出力電圧誤差を小さく抑えるため、R1の値は120Ωを推奨します。R1の値を小さくしI1の値を大きくすることによりIADJの値を無視できるようにします。
またPCBレイアウトでは、最適な負荷レギュレーション性能を得るために、出力電圧設定抵抗の上側を直接VOUT(FIN)に接続してください。
下記の表に代表的な出力電圧の設定抵抗値を示します。この例では公称抵抗値はE24シリーズを使用しています。抵抗R1とR2は同じ種類のものを使用します。種類が違うと、それぞれの許容差や温度特性の違いでR1とR2の比率が変化し、出力電圧精度が悪化する可能性が大きくなります。0402mm(01005インチ)サイズ以下のチップ抵抗を使用する場合は、抵抗の定格電力と最大電圧に注意して部品を選択してください。
最少部品数で設定する場合
| 目標値VO(V) | R1(Ω) | R2(Ω) | 計算値VO‘(V) | 誤差(%) |
|---|---|---|---|---|
| 1.25 | 120 | 0 | 1.250 | 0 |
| 1.5 | 120 | 24 | 1.501 | + 0.10 |
| 1.8 | 82 | 36 | 1.801 | + 0.05 |
| 1.9 | 120 | 62 | 1.900 | – 0.02 |
| 2 | 200 | 120 | 2.007 | + 0.36 |
| 2.5 | 120 | 120 | 2.507 | + 0.29 |
| 3 | 130 | 180 | 2.992 | – 0.28 |
| 3.3 | 110 | 180 | 3.306 | + 0.19 |
| 5 | 120 | 360 | 5.022 | + 0.43 |
| 6 | 180 | 680 | 6.013 | + 0.22 |
| 7 | 180 | 820 | 6.994 | – 0.09 |
| 8 | 150 | 820 | 8.133 | + 1.66 |
高精度に設定する場合
| 目標値VO(V) | R1(Ω) | R2(Ω) | 計算値VO‘(V) | 誤差(%) |
|---|---|---|---|---|
| 1.25 | 120 | 0 | 1.250 | 0 |
| 1.5 | 120 | 24 | 1.501 | + 0.10 |
| 1.8 | 82 | 36 | 1.801 | + 0.05 |
| 1.9 | 120 | 62 | 1.900 | – 0.02 |
| 2 | 120 | 68+3.6 | 2.000 | + 0.01 |
| 2.5 | 150 | 110+39 | 2.501 | + 0.02 |
| 3 | 120 | 120+47 | 3.000 | – 0.01 |
| 3.3 | 130 | 130+82 | 3.301 | + 0.04 |
| 5 | 160 | 430+47 | 5.005 | + 0.10 |
| 6 | 150 | 510+56 | 6.001 | + 0.01 |
| 7 | 120 | 510+39 | 7.002 | + 0.02 |
| 8 | 130 | 680+18 | 8.003 | + 0.04 |
1つ注意点があります。通常はR1とR2を介してVOUT端子からグラウンドへ10mA程度の電流が常に流れていますが、例えば出力電圧を1.25Vに設定する場合、R1を開放にするとこの電流はゼロになります。しかし、BA1117は負荷電流がゼロになると負帰還が機能しなくなるため出力電圧が持ち上がり、正常に動作しません。これは、データシートに記載のある規格値の最小負荷電流(IO(min))の最大値、及び出力電流(IO)の最小値が示しています。これを防止するため、負荷電流が常に10mA程度流れるようにR1には120Ωを実装してください。
ロードレギュレーションとフローティング動作リニアレギュレータのケルビン接続
通常、出力電圧設定抵抗がVOUT端子の配線上に接続されていれば最適なレギュレーションが得られます。しかし、負荷電流が大きい、配線幅が狭い、負荷までの距離が長いなどの場合には、PCB銅箔配線の抵抗により電圧降下が生じる可能性があり、その結果負荷点での電圧が低下する可能性があります。この場合、リニアレギュレータIC自体のロードレギュレーションに、これらの要因によるロードレギュレーションが加算されることになります。このロードレギュレーションの考え方は、フローティング動作リニアレギュレータに限らず、リニアレギュレータ全般に共通です。
この影響は、出力電圧設定抵抗分割器の下側を、負荷に可能な限り近づけて接続することで解消できます。この手法はケルビン接続としてよく知られており、出力大電流ILARGEとVOUT端子から負荷端間の配線抵抗RPARASTICによる降下電圧の影響を排除できます。また、インピーダンスが高い抵抗分圧器はICの近くに配置し、インピーダンスが低い抵抗下側の配線を引き延ばすことによりノイズ耐性を得られます。以下に、BA1117のケルビン接続の例を示します。

ICの出力コンデンサCOUTは発振防止用なのでICの近くに配置し、負荷の近くには急峻な負荷応答に対応するための大容量コンデンサCBULKを配置してください。
注意点があります。多くのリニアレギュレータICにはグラウンド端子があり(フローティング動作のBA1117にはない)、ADJ端子とグラウンド間に基準電圧があるため、抵抗分割器の上側を負荷に近づけるケルビン接続を行います。しかしながら、BA1117はADJ端子と出力VOUT端子間に基準電圧があるので、通常とは逆の接続になることに注意してください。下図はBA1117のケルビン接続としては間違った接続になります。この場合の出力電圧は、続く式で表すことができます。前章で示した、出力電圧設定用の式と比べると、間違った接続ではVREFの項に、出力大電流ILARGEとVOUT端子から負荷端間の配線抵抗RPARASTICによる降下電圧を加算することになります。つまり、負荷電流(ILARGE)によってロードレギュレーションが悪化する=ケルビン接続の効果が得られないことを示しています。

<上図の出力電圧計算式>
\(V_{\text{out}} = (V_{\text{REF}} + I_{\text{LARGE}} \times R_{\text{PARASITIC}}) \times \left(1 + \displaystyle \frac{R_2}{R_1}\right) + I_{\text{ADJ}} \times R_2 \, \text{[V]}\)
フローティング動作リニアレギュレータICの出力電圧誤差
出力電圧誤差は、BA1117の基準電圧*1の許容差に出力電圧設定用外付け抵抗の許容差を掛けた値、ADJ端子電流IADJの許容差、ラインレギュレーション許容差、ロードレギュレーション許容差を合算*2したものになります。それぞれの許容差の最大値で算出した場合には最大許容差を、最小値での算出では最小許容差を求めることができます。
*1:データシートでは基準電圧(Reference Voltage)の記号にVOを使用しているので、ここではVOとした。
*2:PCB配線抵抗に起因するロードレギュレーションは含まない。
出力電圧の最大値と最小値は以下の式で表すことができます。これらに、ラインレギュレーションとロードレギュレーション許容差を加味した値が、最終的な出力電圧の誤差になります。
<最小値>
\(V_{\text{out(min)}} = V_{\text{0(min)}} \times \left(1 + \displaystyle \frac{R_2(\text{min})}{R_1(\text{min})}\right) + I_{\text{ADJ(min)}} \times R_2(\text{min}) \, \text{[V]}\)
<最大値>
\(V_{\text{out(max)}} = V_{\text{0(max)}} \times \left(1 + \displaystyle \frac{R_2(\text{max})}{R_1(\text{max})}\right) + I_{\text{ADJ(max)}} \times R_2(\text{max}) \, \text{[V]}\)
DC-DCコンバータ
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