DC-DCコンバータ|応用編

フローティング動作のリニアレギュレータを使った電源設計のポイント リニアレギュレータの起動特性

2023.04.25

リニアレギュレータの電源(VIN)をオンにしたときの起動特性と、オフにしたときの特性について説明します。リニアレギュレータのオン及びオフ時の振る舞いは、VINの遷移条件や出力コンデンサの静電容量などによって変わってきます。また、負荷デバイスに影響を与えることも多々あるので、動作の評価においては必須のチェック項目と言えます。

リニアレギュレータの起動特性

下図はVINを急峻にターンオンしたときの起動波形の模式図です。VINが立ち上がった時点からリニアレギュレータの回路動作が始まります。出力コンデンサの静電容量が小さい(おおむね数十μF以下)場合は、起動時の突入電流は出力の過電流保護回路が動作する値にまで至らないことが多いので、過電流保護機能が働いて電流制限を受けることはありません。この場合出力電圧は出力コンデンサの静電容量に依存せず、IC内部の基準電圧の立ち上がり時間で上昇します。

リニアレギュレータの起動特性

次は同様にVINのターンオンが急峻で、今度は出力コンデンサの静電容量が大きい(概ね数百μF以上)ときの起動波形の例です。起動時出力コンデンサの充電のための突入電流が大きくなるため、過電流保護が働き電流制限を受けます。そのため出力コンデンサへの充電電流が制限され、出力コンデンサの静電容量が大きいほど起動(設定値に到達する)時間が長くなります。

併せて出力コンデンサの静電容量と出力電圧の起動時間の関係を表に示します。なお、これはBA1117シリーズにおける一例であり、リニアレギュレータの種類や回路条件によって異なります。要点として、出力コンデンサの静電容量が大きくなると起動時間は長くなり、出力設定電圧が高いほど時間がかかることを押さえてください。

リニアレギュレータの起動特性

最後は、VINを緩やかにターンオンした場合で、出力コンデンサの静電容量が小さいときの起動波形の例です。BA1117ではVINが約1Vを超えた時点から回路動作が開始し出力電圧が上昇し始めます。また、出力コンデンサが大きいときも回路動作を開始するVINの電圧は同じで、出力電圧の立ち上がり波形は、上記の「VINを急峻にオンした場合 出力コンデンサ値が大きいとき」のようになります。VINが穏やかに立ち上がる条件では、VINが起動開始電圧に至るまでの時間が観測しやすい条件となります。VINが急峻にターンオンした場合は瞬時にこの電圧を超えるため、直ちに起動開始するように見えます。

リニアレギュレータの起動特性

リニアレギュレータの電源オフ時の特性

下図はVINを急峻にターンオフしたときの出力電圧波形の模式図です。VINが急峻にターンオフすると、出力には出力コンデンサの電荷が残っているため、入出力電圧が逆転する(入力電圧より出力電圧が高くなる)ため、出力コンデンサの電荷がIC内部の寄生素子を介して入力側へ放電されます。したがって、出力電圧は入力電圧に追従する形で急峻に降下し、VINが0Vに達すると寄生素子のオン電圧(約0.7V)を残して降下は緩やかになります。その後は負荷抵抗の時定数で電圧降下して行きます。負荷が単純な抵抗の場合の出力電圧降下時間は、下記の式で求めることができます。

\(T_{\mathrm{OFF}} = -C_\mathrm{O} \times R_\mathrm{L} \times \ln{\left(\displaystyle \frac{V_\mathrm{C}}{V_\mathrm{O}}\right)} \, \left[\mathrm{s}\right]\)

   CO:出力コンデンサ [F]
   RL:負荷抵抗 [Ω]
   VO:出力電圧 [V]
   VC:最終降下電圧 [V]

リニアレギュレータの電源オフ時の特性

次の図は、VINを緩やかにターンオフしたときの波形図の例です。VINの電圧が降下し、入出力電圧が逆転するポイントに達すると、出力コンデンサの電荷はIC内部の寄生素子を介して入力側へ放電されます。したがって、出力電圧は入力電圧に追従する形で降下し、VINが0Vに達すると寄生素子のオン電圧(約0.7V)を残して降下は更に緩やかになります。その後は負荷抵抗の時定数で電圧降下して行きます。基本的にVINを急峻にターンオフした場合と同じですが、ターンオフが穏やかな分出力電圧の降下も穏やかになります。

リニアレギュレータの電源オフ時の特性

VINをオフした後に速やかに出力電圧が0Vになることが求められる場合は、出力コンデンサの電荷を強制的に放電する回路を別に設ける必要があます。

リニアレギュレータの突入電流

BA1117シリーズに関わらず一般的に、入力電源を投入して出力が立ち上がり始める(起動)と、出力コンデンサへ電荷を充電するための突入電流が流れます。その際に出力電流値が推奨動作範囲の最大値を超えても、内蔵の過電流保護(OCP:Over Current Protection)回路によって電流が制限されるため動作として問題ありません(過電流保護については別途説明)。

ただし、その電流によりジャンクション温度TJが150℃を超えることがないことを確認しておく必要があります。短時間の過電流によるジャンクション温度TJは、過渡熱抵抗ZTHを使って見積もることができます。
過渡熱抵抗は、時間のパラメータを持った熱抵抗です。厳密には、TJは電力投入時点から上昇(発熱)を開始し、ある時間を経過した後に安定します。通常の熱抵抗θJAは、安定状態の発熱を消費電力で割った値です。これに対して過渡熱抵抗は、電力投入後からある時間を経過した時点の発熱を、その時点の電力で割った値になります。以下に過渡熱抵抗を使ってTJを求める計算式を示します。式としてはθJAを使った式のθJAZTHに置き換えた形です。

\(T_J = T_A + Z_{TH} \times P \, \left[{℃}\right]\)

  TA:周囲環境温度 [℃]
  ZTH:ジャンクションから周囲環境までの過渡熱抵抗 [℃/W]
  P:ICの消費電力 [W]

PはICの消費電力で、次式により計算できます。なお、この計算式はBA1117のようにグラウンド端子を持たないフローティング動作のものの算式で、グラウンド端子を持つタイプの場合は、IADJの項がIINIOUTになります。グラウンド端子を持つタイプに関しては別途記事を用意する予定です。

\(P = \left(V_{\mathrm{IN}} – V_{\mathrm{OUT}} \right) \times I_{\mathrm{OUT}} + \left(V_{\mathrm{IN}} \times I_{\mathrm{ADJ}} \right) \, \left[W\right]\)

  VIN:入力電圧 [V]
  VOUT:出力電圧 [V]
  IOUT:出力電流 [A]
  IADJ:ADJピン電流 [A]

ただし、IADJIOUTの場合は次式で計算できます。

\(P = \left(V_{{IN}} – V_{{OUT}} \right) \times I_{{OUT}} \, \left[W\right]\)

計算例を示すために条件を設定します。TO252-3パッケージにおいて、TA=60℃の環境で、突入電流1.5Aが1ms間流れたとします。1msでの過渡熱抵抗は、右のグラフから2.7℃/Wです。入力電圧VINは5V、出力電圧VOUTは3.3Vとします。これらの数値を最初に示したジャンクション温度TJの計算式に代入し計算します。

\(T_\mathrm{J} = 60\,\mathrm{℃} + 2.7 \times \left(5\,\mathrm{V} – 3.3\,\mathrm{V}\right) \times 1.5\,\mathrm{A} = 66.9\,\mathrm{℃}\)

TJは150℃以下なので、この条件では問題がないことがわかります。

このように突入電流が1ms程度の短時間なケースでは、チップ温度(TJ)の上昇がわずかなため、突入電流による温度上昇が問題になることは少ないです。

リニアレギュレータの突入電流

リニアレギュレータの過電流保護(OCP)

前章の説明にあった過電流保護について説明します。

ICの出力がグラウンドに短絡したとき、過電流からICの破壊を防止するための機能が過電流保護回路です。Over Current Protectionの略でOCPと呼ばれることもあります。この保護機能に関する重要な点として、これはICの破壊を防止するためのもので、負荷(給電先のデバイスなど)や回路、及び装置の保護を目的とした機能ではないことを理解しておく必要があります。回路や装置の保護を目的とする場合は、ヒューズや別の電流制限デバイスを用いることが前提となります。

BA1117シリーズの過電流保護の特性は、下図のような垂下型特性です。A点は過電流保護が作動するポイントで、その出力電流は約1.7A(標準値)です。過電流保護が作動する出力電流の下限値にはばらつきがありますが、出力電流の保証値である1Aを下回ることはありません。過電流を検出すると電流制限回路が動作し、出力電流はほぼ一定になり、電圧がほぼ垂直に低下します(B点)。その後は、過電流が流れ続ける限りこの状態を維持します。つまり、出力短絡の原因が負荷にある場合、前述のように負荷は保護されません。過電流状態がなくなると出力電圧は自動復帰します。

出力電流が保証値の1Aを超えて過電流保護が作動するまで(標準値1.7A)の間はリニアレギュレータとして動作しますが、電気的特性は保証外となります(データシートの規格値保証条件参照)。また、出力電流値に関わらず許容損失(絶対最大定格1.2W、TO252-3パッケージ)を超えて動作し続けると、過熱保護回路が動作し出力をオフします。

リニアレギュレータの過電流保護(OCP)

リニアレギュレータの過熱保護(TSD)

過電流保護と同様に、リニアレギュレータの代表的保護機能である過熱保護について説明します。

過熱保護(TSD:Thermal ShutDown)は、出力短絡や電力損失の増大によりICチップの温度が絶対最大定格を超えるような場合に、ICを過熱による損傷から保護するための機能です。この保護機能は、負荷や装置の過熱保護の代わりを意図したものではないことを理解してください。

BA1117シリーズの過熱保護回路はチップ温度(ジャンクション温度)が約155℃(参考値)を超えると、リニアレギュレータの出力をオフにして、出力電流を遮断してチップの温度を下げます。チップの温度が約150℃(参考値)に低下すると、再び出力をオンにして出力電流の供給を開始します。チップ温度が過剰に上昇した原因が取り除かれるまで、出力オン・オフの動作が繰り返されます。この状態が続いてもICがすぐに破壊することはありませんが、長時間の繰り返し動作はICの劣化や破壊につながるので回避してください。

リニアレギュレータの過熱保護(TSD)

リニアレギュレータの等価回路

最後にリニアレギュレータの等価回路について説明します。

以下はBA1117シリーズの等価回路です。等価回路は、各端子間の内部での接続や、出力段回路、入力段回路の基本構成がおおよその構成がわかります。実際の回路は更に複雑で、ICの構造ゆえの寄生素子なども存在しますが、等価回路が特性や振る舞いの理解に役立つことがあります。

BA1117はドロップアウト電圧が1V~1.2V(標準値)のLDOですが、出力段がNPNトランジスタとPNPトランジスタのダーリントン接続が理由であることがわかります。また、過電流保護回路や過熱保護回路の動作もおおよそ理解できます。必須の検討事項ではありませんが、理解を深める資料として利用できます。

リニアレギュレータの等価回路

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