DC-DCコンバータ|基礎編
昇圧型DC-DCコンバータの最大出力電流 インダクタと昇圧比による最大出力電流
2023.01.26
この記事のポイント
・インダクタリップル電流によりローサイドスイッチに流れる電流は入力電流より大きくなる。これにより出力可能な最大電流は減少することになる。
・インダクンス値によりリップル電流の大きさが変化し、インダウタンス値が大きい程最大出力電流も大きくなる。
・インダクタンス値は直流重畳特性によりインダクタ電流が大きい程低下し、インダクタ電流のピーク値を増加させ、過電流制限に早く到達して最大出力電流を低下させるので要注意である。
2つ目の「インダクタと最大出力電流」についてです。
- ローサイドスイッチの最大電流と出力可能な最大出力電流
- インダクタと昇圧比による最大出力電流
- 入出力電圧と部品定数による最大出力電流
インダクタに流れる電流と昇圧比による最大出力電流
1つ目でインダクタリップル電流を最大入力電流の30%と仮定しましたが、インダクタリップル電流の値は、スイッチング周波数、インダクタンス値、そして入力電圧、出力電圧(厳密にはダイオード整流か同期整流かにも依存)により変化します。使用部品と使用条件からインダクタリップル電流がいくらになるかを計算してみます。正確な計算を行うには部品の精度や様々な導通損や電圧降下損などを算入する必要がありますが、今回は部品誤差なし、損失なしの理想状態での概算を行います。
負荷変動のない定常状態ではインダクタリップル電流はローサイドスイッチのオン時間での電流上昇とハイサイドスイッチオン時間での電流減少量は同じとなり、平均電流が一定の状態となります。この電流の増減量、電流変化のP-P値がインダクタリップル電流値となります。よってローサイドスイッチのオン時間の間にインダクタ電流がどれだけ増加するかを計算します。
まずローサイドスイッチのオン時間は、スイッチング周波数Fswから1周期の時間を、VIN、VOUTの昇圧比からオン時間の比率を求め、オン時間TONを算出します。
![]()
インダクタの電流変化量ΔIは時間と印加電圧に比例し、インダクタンス値に反比例しΔI=T×V÷LとなるのでΔIを計算するとリップル電流IRIPPLEが求まります。
![]()
VIN、VOUT、Fswが一定条件の時、リップル電流IRIPPLEはインダクタンス値Lに反比例することになります。インダクタンス値は抵抗の様にE24とかの細かいステップでは選べずE6程度のステップしかないので目的のリップル電流に近い値となるインダクタを選択します。最大スイッチ電流から選択したインダクタで計算したリップル電流IRIPPLEの1/2を引いた値が最大入力電流IINとなります。最大出力電流IOUTは変換効率ηと昇圧比VOUT÷VINの逆比により以下の式となります。
![]()
但し、スイッチ電流の最大値以外に入力電流の最大値などに電流制限の規定がある製品の場合はその規定も含めて最大出力電流を見積もる必要があります。
インダクタンス値による最大出力電流の変化
インダクタンス値が一定の値で固定されている電源製品ではその値で位相補償を設計しており定数を変更できない場合があります。しかし使用可能なインダクタンス値に幅がある場合、ローサイドスイッチの電流制限はピーク電流制限で行われることが多いので、選択したインダクタンス値により出力可能な最大電流値が変わります。例えば、スイッチの電流制限値が1.5A、スイッチング周波数が 600kHzでインダクタンス推奨値が 10μHから22μHの製品を VIN=2.4V、VOUT=9.0Vで使用した場合、
10μHのインダクタを使用した場合の最大出力電流IOUT1は

22μHのインダクタに使用した場合の最大出力電流IOUT2は

インダクタンス値を大きくした方が入力電流を多く流せて最大出力電流も大きくなります。

ピーク電流制限ではインダクタンス値を小さくすると最大出力電流は減少するので電流が不足する場合はインダクタンス値を大きくすることにより電流を増加させることは可能となります。但し、最大電流は増加しますが、V÷Lによるインダクタ電流の増加減少の電流変化速度が低下するので、高速な負荷電流の変化があった場合にインダクタ電流を増減して負荷電流の変動に追従させる負荷過渡応答特性は低下するので負荷変動が大きい場合はデメリットとなるので注意が必要です。また、インダクタンス値を大きくしすぎると、昇圧コンバータ特有の右半平面のゼロという不安定要因の影響で電源の負帰還制御が不安定となり発振に至る場合があります。
インダクタンス値の精度と直流重畳特性によるインダクタンス値の減少に注意
ここまではインダクタに誤差がない条件で計算してきましたが、現実のインダクタには誤差があり、-誤差によるインダクタリップル電流の増加により最大出力電流は減少します。また、インダクタは電流を増加するとコア材の磁気飽和により比透磁率が低下してインダクタンス値が減少するという直流重畳特性という特性があります。最大負荷時、インダクタ電流の増加によりインダクタンス値が低下してインダクタリップル電流の電流増加速度(V/L)が急峻となりピーク値が早く電流制限値に達してしまい入力電流がIIN3まで減少した結果、予定していた最大出力電流が確保できなくなる場合があります。

インダクタのデータシートの定格電流の数値だけでインダクタを選択してはいけません。必ず精度+直流重畳特性を確認して、実使用条件での最大負荷時でもピーク電流に大きな影響が出ないインダクタンス値が確保できており、最大出力電流に問題がないかを確認しておく必要があります。
DC-DCコンバータ
基礎編
- 電源回路の代表的な7方式: 低雑音型から昇圧型まで!
- 昇圧型DC-DCコンバータのシャットダウン時の動作
- 昇圧電源の出力でのスイッチングノイズの低減 -はじめに-
- 昇圧型DC-DCコンバータの出力リップル電圧 -はじめに-
- 昇圧電源の負荷短絡によるトラブルと保護回路 -はじめに-
- 昇圧型DC-DCコンバータの最大出力電流 -はじめに-
- リニアレギュレータの基礎
- スイッチングレギュレータの基礎
- DC-DCの基礎 ーまとめー
- DC/DCコンバータとは?
設計編
評価編
-
損失の検討
- 同期整流降圧コンバータの制御IC消費電力損失
- 同期整流降圧コンバータのデッドタイム損失
- 同期整流降圧コンバータのゲートチャージ損失
- インダクタのDCRによる導通損失
- 電源ICの電力損失計算例
- 定義と発熱
- 同期整流降圧コンバータの損失
- 同期整流降圧コンバータの導通損失
- 同期整流降圧コンバータのスイッチング損失
- 損失の簡易的計算方法
- パッケージ選定時の熱計算例 1
- パッケージ選定時の熱計算例 2
- 損失要因
- スイッチング周波数を高めて小型化を検討するときの注意
- 高入力電圧アプリケーションを検討するときの注意
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その1
- 出力電流が大きいアプリケーションを検討するときの注意 その2
- 損失の検討 ーまとめー
- スイッチングレギュレータの特性と評価方法の概要
- 電源ICのデータシートの読み方:表紙、ブロック図、絶対最大定格と推奨動作条件
- スイッチングレギュレータの評価:出力電圧
応用編
- リニアレギュレータを使った電源設計のポイント
- LDOリニアレギュレータの並列接続とは
- リニアレギュレータの簡易的な安定性最適化方法
- 汎用電源ICで電源シーケンスを実現する回路
- リニアレギュレータを使った電源が起動しないトラブル事例1:手はんだによるICおよび周辺部品の破損
- フローティング動作のリニアレギュレータを使った電源設計のポイント
製品紹介
FAQ