エンジニアコラム
Motor Notes モータードライバー出力トランジスタの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力
2020.08.25
今回は、ブラシ付きDCモータードライバーICでPWM駆動行う際に、電流回生を出力MOSFETの寄生ダイオードを通じて行った場合の消費電力について話をしたいと思います。この話題を取り上げたのは、実際の回生時の消費電力が計算で算出した想定値より大きくなることがあり、場合によっては問題になるので注意が必要だからです。
MOSFETの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力は単純計算より大きくなる?
出力MOSFETの寄生ダイオードを通じて電流回生を行った場合の消費電力は、寄生ダイオードの順方向電圧×モーター電流となるはずです。しかしながら、実際にはこの計算値より消費電力が大きい場合があります。
この理由は、出力MOSFETの寄生ダイオードに順方向電圧が発生するように電流が流れると、MOSFETの構造上内在する寄生トランジスタが動作し電源からGNDに電流を流します。この電流は、ダイオードに流れる電流の数十分の一未満と少ないのですが、消費電力は電源電圧×電源-GND間電流となり、電源電圧が高い場合は無視できない値になります。
この現象をドライバー出力MOSFETの状態と電流の流れ、そして出力MOSFETの構造から説明します。
最初に、電流回生時の出力MOSFETの状態と回生電流の流れを確認します。以下はHブリッジ回路ですが、動作に関係しないMOSFETは省略してあります。(a)はモーターに電流供給時、(b)と(c)はどちらも電流回生時ですが2通りの回路状態がありますので、(b)を電流回生時1、(c)を電流回生時2とします。

(b)電流回生時1は、電流供給時にオンしていたQ1をオフ、Q4はオンのままです。この状態では、オフしているQ2の寄生ダイオードとオンしているQ4を通じて電流が回生します。
(c)電流回生時2は、電流供給時にオンしていたQ1とQ4をオフし、すべてのMOSFETがオフ状態です。この場合、Q2とQ4の寄生ダイオードを通じて電流が回生します。
次に、追加の電流を流してしまう寄生トランジスタを説明するために、モータードライバーICの出力MOSFETの構造模式図(断面図)を示します。上記回路図では、ハイサイドはPch、ローサイドはNchのMOSFETを使っているので、下図にもそれぞれの構造を示してあります。

出力Nch MOSFETには、ドレインDのN型拡散層と、素子分離P型拡散層と、電源につながるN型拡散層(ここでは出力Pch MOSFETのソースSに接続)により、寄生NPNトランジスタQaができます。
このNch MOSFETのソース-ドレイン間の寄生ダイオードDi_aに回生電流が流れると、素子分離P型拡散層がGNDに接続しているため、寄生NPNトランジスタQaのベース-エミッタ間のダイオードにも順方向の電圧が発生します。このために寄生NPNトランジスタQaがオンしてコレクタ電流を流し、電源Eaから電流を引き込みます。
出力Pch MOSFETに関しても原理的には同じです。ドレインDのP型拡散層と、ソースSと共通のバックゲートN型拡散層と、素子分離などのP型拡散層とで寄生PNPトランジスタQbができます。
このPch MOSFETのソース-ドレイン間の寄生ダイオードDi_bに回生電流が流れると、寄生PNPトランジスタQbがオンしてコレクタ電流を流し、GNDに電流を流し出します。
出力MOSFETの寄生ダイオードに回生電流が流れた時、このように寄生トランジスタにより電源-GND間に電流が流れます。一般的に流れる電流は回生電流より2桁程度下より小さい電流ですが、ICの使用しているプロセスやMOSFETのレイアウトにより大きく変わります。したがって、出力MOSFETの寄生ダイオードを通じて電流回生を行う使い方をする場合は、これらの寄生トランジスタにより流れる電流の大きさの確認が必要です。
例えば、(c)電流回生時2において、電源電圧Ea=24V、回生電流Io=1.0A、Nch MOSFETの寄生ダイオードの順方向電圧VF_N=0.8V、Pch MOSFETの寄生ダイオードの順方向電圧VF_P=0.95V、Nch MOSFETの寄生トランジスタとPch MOSFETの寄生トランジスタが電源-GND間に流す電流の回生電流に対する比を各々k1=1/100とすると消費電力Pcは以下のようになります。
Pc=Io×(VF_N+VF_P+2×k1×Ea)
=1×(0.8+0.95+2×1/100×24)=1.75+0.48=2.23W
この例では、寄生トランジスタが流す電流による消費電力への影響は決して無視できない大きさです。電源電圧Eaが高い場合には注意が必要です。
【資料ダウンロード】 モーターの基礎とモータードライブの概要
モーターは様々な分野で多様なアプリケーションに使用されているので多くの種類があり、モーターのドライブ(駆動)方法や制御方法も多様です。このハンドブックでは、モーターの基礎とモータードライブの概要について解説しています。
エンジニアコラム
-
回路設計とEMC設計の塩梅:はじめに
- 第1回 半導体概要(1) トランジスタ・ダイオード
- 第2回 半導体概要(2) 半導体集積回路(LSI・IC)
- 第3回 半導体概要(3) 半導体集積回路(LSI・IC)モジュール
- 第4回 製品仕様書(1) 半導体集積回路の製品仕様書
- 第5回 製品仕様書(2) 製品仕様書の読み方 保証値なのか参考値なのかを意識する
- 第6回 製品仕様書(3) 一般的なEMC評価指標例
- 第7回 評価回路・基板(1) 評価基板の使い方
- 第8回 評価回路・基板(2) 接地線(GND・グランド)の取り扱い
- 第9回 評価回路・基板(3) 電磁干渉(EMI)と電磁感受性(EMS)
- 第10回 Webサイト(1) 最新情報・主力製品紹介・製品仕様書
- 第11回 Webサイト(2) アプリケーションノートとデザインモデル
- 第12回 Webサイト(3) 設計サポートツール
- 第13回 EMC概要(1) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第14回 EMC概要(2) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第15回 EMC概要(3) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第16回 EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要
- 第17回 EMC計算法・EMCシミュレーション(2) 伝導エミッション(CE)の計算試行
- 第18回 EMC計算法・EMCシミュレーション(3) 放射エミッション(RE)の計算試行
- 第19回 EMC計算法・EMCシミュレーション(4) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第20回 EMC計算法・EMCシミュレーション(5) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第21回 EMC計算法・EMCシミュレーション(6) 放射イミュニティ(RI)の計算試行
- 第22回 EMC計算法・EMCシミュレーション(7) グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)
- 第23回 EMC計算法・EMCシミュレーション(8) 3次元(3D)プロット
- 第24回 EMC計算法・EMCシミュレーション(9) 計算法で用いるGNUツール
-
モーターの進化とその種類
- ブラシレスモーターのセンサ付とセンサレス駆動の特徴と使い分け
- ブラシレスモーターの位置センサの役割とその配置で注意すべきこと
- モータードライバーの絶対最大定格
- 実使用でのモータードライバーの出力電流
- モーターに最大の電流が流れる条件とは
- モータードライバー出力トランジスタの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力
- ブラシ付きDCモーターのトルク負荷、回転数、モーター電流の関係
- モーターのPWM駆動:PWM周期とモーターの電気的時定数の関係
- ブラシ付きDCモーターのPWM駆動:MOSFETと回生電流の理解
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その1
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その2
- ブラシ付きDCモーターを簡単に駆動する方法
- PWM駆動によるモーターの定電流動作
- ブラシ付きモーターPWM駆動の電流回生の方法と違い
-
EV(電気自動車)で重要なー「高効率モーター駆動」-基本
- 5人のエンジニアがミドルパワーデバイス新製品を語る:第1回 xEV向けインバータ回路のゲート駆動向けバイポーラトランジスタを開発