2022.03.15
こんにちは! ロームの稲垣です。
第19回は、電磁両立性(EMC)の計算法・シミュレーションの(4)で、伝導イミュニティ(CI: Conducted Immunity)の計算試行について説明します。半導体集積回路の電磁両立性(EMC)特性に関するもので、「IEC 62132-4 DPI法(Direct RF Power Injection Method)」ついてです。
DPI法(IEC 62132-4)は150Ω法(IEC 61967-4)と共に、半導体集積回路のEMC測定法として頻繁に使用される電磁両立性(EMC)国際規格です。計算対象としては、RF信号発生器、電力増幅器、双方向性結合器、DCブロック(容量素子C)、デカップリング・ネットワーク(誘導素子L)、DUT(試験対象)、EMC対策回路(ここでは容量素子C)等があります。DPI法では、試験周波数が278周波数(150kHz-1GHz)と指定されています。従って、解析法としては回路解析(過渡解析)を278回繰り返し、その結果を周波数軸のグラフにプロットして計算結果を得ます。また、今回も測定値をベースに、計算機モデル(シミュレーション・モデル)を作成する手法で実現します。DPI法の測定結果は、上記の双方向性結合器で観測した進行波電力の電力値(dBm)である事にも注意してください。回路解析では、直接電力値を扱えないので少し工夫が必要です。
それでは順を追って説明します。計算試行では2段階処理をしていて、1段階目のIB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)と2段階目の計算予測(Prediction)の各々を(シェル・)スクリプトで自動化しています。1段階目のIB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)は、下記の計算手順となります。尚、IB(誤動作閾値)モデルについては、「第16回EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要」を参照してください。
■1段階目:IB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)
IB(誤動作閾値)モデルの計算例(電圧換算).
IB(誤動作閾値)モデルの計算例(電流換算).
尚、伝導・放射エミッション検証で使用したIA(電磁干渉)モデルは、それ単体でも数値に汎用性があります。即ち計算回路図が異なっても、その値単体に意味を持ちます。一方、IB(誤動作閾値)モデルは計算回路図やLSIモデル(インピーダンス特性)に依存した、限定された固有の電圧値や電流値である事に留意ください。計算回路図やLSIモデルと一緒に使うことで、測定時の誤動作を計算機上で再現する事のできる計算機モデル(シミュレーション・モデル)となります。
2段階目の計算予測(Prediction)は、下記の計算手順となります。
■2段階目:IB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)
左:IB(誤動作閾値)モデル作成回路での計算予測例.
(測定値と計算値が一致,黒:測定値,赤:計算値,青緑:限度値)
右:EMC対策回路(C=1uF接続時)の計算予測例.
(黒:測定値,赤:計算値,青緑:限度値)
実際の設計現場では、EMC対策回路を検討して、この計算予測の計算を繰り返し実行することで、IEC規格に準拠したアプリケーション回路やLSI回路を決定していきます。(全周波数において限度値よりも計算予測値が大きくなる様にEMC対策回路を決定します。)
御一読頂きまして、どうもありがとうございます。
<書籍の参照ページ>
「LSIのEMC設計」,科学情報出版株式会社,2018年2月初版発行,ISBN978-4-904774-68-7.
これからEMCに取り組む設計者向けに、EMCのイメージを掴んでもらうためのハンドブックです。
半導体デバイス、製品仕様、回路・基板の3つの観点とEMCの関係について、感覚的に理解を進めます。
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