2020.01.28
前回、出力電流に関連して絶対最大定格や推奨動作条件の話をしましたが、今回はモータドライバに必要な寿命を確保し安全に使うためには、出力電流の定格だけで考えるのではなく、ディレーティングが必要になるという話をしたいと思います。
以下の表は、前回の「モータドライバの絶対最大定格」で示したものと同じものです。このモータドライバICは、Hブリッジを構成するパワーMOSFETを内蔵したタイプです。これらの条件から出力電流は、最大定格は3Aですが推奨条件の2.4Aを最大として、さらにTjmax=150℃を超えなければ使っても大丈夫だと理解できると思います。
実際のところ、推奨動作条件を守って使えば基本的に問題はありませんが、トランジスタやICなどの半導体部品の信頼性(動作寿命)は使用条件によって違ってきます。MTBFやFITといった信頼性を示す指数を導出する際に使う加速係数を決める主要なファクタに温度があります。単純に言えば、温度が高いほど加速が大きくなり、劣化が早まり寿命は短くなる、つまり信頼性は低下します。
部品や材料の寿命に関して、「10℃2倍則(10℃半減則)」と呼ぶ経験則があります。これは、温度が10℃上昇(低下)すると寿命が1/2(2倍)になると言うもので、信頼性上の加速係数を算出するアレニウスの法則に基づくものです。寿命に十分な考慮が必要なアルミ電解コンデンサでは、「105℃/2000時間」のような寿命が示されていることがあり、10℃の違いで寿命が半分(倍)なので切実です。半導体はコンデンサに比べ遥かに寿命が長いので、あまりピンとこないかもしれませんが基本は同じです。また、温度の他にも湿度や化学反応など加速係数に関するファクタがあり、倍率はさておき条件が厳しくなれば寿命は短くなります。
ディレーティングとは、定格に対してマージンを持たせることです。温度だけではなく、耐圧などに対しても用いられます。上記の例では、ドライバ電流は2.4A連続で流すことができますが、Tj=150℃ぎりぎりで使うのではなく、例えば電流を2Aまでにする(熱計算をした上で)、周囲温度Taは60℃までに抑えるといった対処です。これは、信頼性はもちろん安全性に関係します。
特にパワーデバイス、モータドライバでは出力段のトランジスタに関しては、安全面で安全動作領域(SOA:Safety Operation Area、もしくはASO:Area of Safety Operation)での動作になっているかが重要になります。
上記の例は、Hブリッジの4個のMOSFETを内蔵したモータドライバICなので、トランジスタ個別ではなくICとしての定格、パッケージの許容損失(PD)、最終的にはTjmaxを超えない条件で余裕をみる=ディレーティングすることになりますが、コントローラタイプのモータドライバICを使って、外付けでHブリッジを構成する場合には、トランジスタの選定や評価において安全動作領域の検討が必須になります。
MOSFETの安全動作領域特性図の例を示します。安全動作領域とは、青の曲線の内側(電圧・電流の小さい側の領域)になります。
安全動作領域は、単純にはVDSとIDの定格の内側になりますが、それに許容損失(熱)と二次降伏*1 の制限が加わります。他に、MOSFETのオン抵抗による制限(VDSが低い場合、オームの法則によりIDが定格まで流れない)がありますが、この図では割愛されています(こちらを参照ください)。
安全動作領域内であることの確認には、実際の電圧・電流を測定する必要があります。モータドライブに関しては、コイルがインダクタンス負荷なので電圧と電流に位相差が生じるので、その前提で電圧(VDS)と電流(ID)を確認する必要があるので注意が必要です。
*1:「二次降伏」とは、本来バイポーラトランジスタが高電圧大電流の動作領域に入った際に電流集中が起き、ホットスポットが発生しインピーダンスが下がり、さらに電流が増加するといった熱暴走状態を示す用語で、厳密にはMOSFETに対する用語ではありません。しかしながら、MOSFETにおいても熱によってゲートしきい値電圧が下がりチャネル抵抗が下がることで電流が増加し、さらに温度が上がり電流がさらに増加するといった熱暴走が生じることから、MOSFETでもこの領域を二次降伏と表記しているケースが少なくないので、二次降伏という用語を使いました。
モータは様々な分野で多様なアプリケーションに使用されているので多くの種類があり、モータのドライブ(駆動)方法や制御方法も多様です。このハンドブックでは、モータの基礎とモータドライブの概要について解説しています。
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