2022.04.12
こんにちは! ロームの稲垣です。
第20回も電磁両立性(EMC)の計算法・シミュレーションです。今回(5)は、伝導イミュニティ(CI: Conducted Immunity)の計算試行について説明します。車載用の電磁両立性(EMC)特性に関するもので、「ISO 11452-4規格 HE法(Harness Excitation Method)」ついてです。
HE法は規格書の中でBCI(Bulk Current Injection)法と、TWC(Tubular Wave Coupler)法が記載されています。どちらもワイヤー・ハーネス(車両内の電気配線を模擬)に電磁雑音を印加して、DUT(試験対象)の誤動作レベルを判定するものです。BCI法は0.1MHz~400MHzまでの電流雑音を電流注入プローブ経由で印加する試験方法で、TWC法は400MHz~3GHzまでの電力雑音をカップラ経由で印加する試験方法です。今回はBCI法の計算予測について説明します。
ISO 11452-4規格のBCI法は、前回説明したIEC 62132-4規格のDPI法とは大きく異なる試験方法となります。DPI法では、DUT(試験対象)がどの程度の雑音耐性があるかを、進行波電力の値を上下させながらその電力値を精度良く測定します。一方、BCI法は例えば200mAの電流雑音を印加して全周波数帯で誤動作するか否かを試験します。従って試験結果は、周波数毎にPass/Failのどちらかに判定される事になります。
計算予測する際は、DPI法の方が扱いやすいと思います。BCI法のようにPass/Failが測定結果となると、回路解析(SPICEシミュレーション)でどう表現して良いか悩みどころになると思います。ここでは、この辺りも含めて説明していきます。尚、本BCI法の計算予測は、電磁界解析を使用しないで実施しています。回路解析で求解できる現象は、その方が短時間で計算予測できます(今回のCPUタイムは約2分です)。
計算対象は、車載バッテリ、疑似電源回路網(LISN)、ワイヤー・ハーネス(3線式:電源線、接地線、出力線)、電流注入プローブ、負荷、EMC対策部品(ここでは容量素子C)、DUT(LSIモデル)、電流雑音源、規格適合判定器等となります。また、今回も測定値をベースに、計算機モデル(シミュレーション・モデル)を作成する手法で実現します。
それでは順を追って説明します。計算試行では2段階処理をしていて、1段階目のIB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)と、2段階目の計算予測(Prediction)の各々を(シェル・)スクリプトで自動化しています。1段階目のIB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)では、下記の計算手順となります。
■1段階目:IB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)
IB(誤動作閾値)モデルの計算例
尚、IB(誤動作閾値)モデルは計算回路図やLSIモデル(インピーダンス特性)に依存した限定された固有の電流値で有る事に留意ください。計算回路図やLSIモデルと一緒に使うことで、測定時の誤動作を計算機上で再現する事のできる計算機モデル(シミュレーション・モデル)となります。(ここでは御客様御要望で1MHz~1GHzまで対応)
2段階目の計算予測(Prediction)では、下記の計算手順となります。
■2段階目:IB(誤動作閾値)モデル抽出(Extraction)
左:IB(誤動作閾値)モデル作成回路での計算予測例.
(測定値と計算値が凡そ一致,黒:測定値,赤:計算値,青:限度値)
右:EMC対策回路(C=0.1uF, 0.47uF接続時)の計算予測例.
(黒:測定値,赤:計算値,青:限度値)
この例は、1MHz~1GHzまで200mA以上の誤動作耐性について確認したもので、図中の青線(規格限度値)とは関係なく全帯域で耐性が向上するように検証を進めた結果になっています。
(本来のISO 11452-4規格は、1MHz~400MHzの内1MHz~3MHzと200MHz~400MHzで、限度値が少し緩くなっています。また0.1MHz~1MHzも限度値が設定されています。)
御一読頂きまして、どうもありがとうございます。
<書籍の参照ページ>
「LSIのEMC設計」,科学情報出版株式会社,2018年2月初版発行,ISBN978-4-904774-68-7.
EMC(電磁両立性)の基礎とスイッチング電源のノイズ対策に関するハンドブックです。ノイズの基礎の理解を基に、スイッチング電源におけるコンデンサとインダクタを使ったノイズ対策を解説しています。
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