エンジニアコラム
5人のエンジニアがミドルパワーデバイス新製品を語る 第2回 オン抵抗を大幅に低減した、第5世代-40V/-60V耐圧PchパワーMOSFET
2020.12.18
はじめして。ロームの白石と申します。第2回目は、私が担当している低耐圧MOSFETの新製品の中から、ロームの第5世代微細プロセスを用いて新規に開発した、「-40/-60V耐圧 PchパワーMOSFETシリーズ」を紹介します。
最初に、今回新たにPchパワーMOSFETを開発した背景を説明したいと思います。一般的にNch MOSFETが多く使用されていますが、Pch MOSFETにはその特徴ゆえの需要があり、市場要求の変化に対応するための開発が求められています。
Nch MOSFETが多く使われるのは、一般に同サイズのPch MOSFETに比べてオン抵抗が低いことが理由です。これは損失低減につながりますので、特に近年の重要なポイントになります。Nch MOSFETは移動度が高い電子をキャリアとするのに対し、Pch MOSFETは正孔をキャリアとするため移動度が電子よりも約3倍大きく、電流が流れにくいことから、素子サイズが同じならオン抵抗が高くなってしまいます。
一方、Nch MOSFETにも検討課題があります。ハイサイド側にNch MOSFETを使用する場合、ゲート電圧を入力(ドレイン)電圧より高くしなければオンしません。そのため、ゲート電圧用に別途昇圧回路を設けるなど、回路構成が複雑になってしまいます。対するPch MOSFETは、ゲート電圧を入力電圧(ソース)より低くすれば駆動できるので特別な駆動回路は必要なく、回路構成が簡素化できるといった利点があります。
このような利点からPch MOSFETは、工作機械、ロボット用モーター、産業機器FAN、電源回路向けのスイッチング用途として幅広く使用されています。またDCモーター、ステッピングモーター駆動用Hブリッジ回路やスイッチング電源回路のハイサイドスイッチとして使用されることも多く、Nchのローサイドスイッチとの組み合わせで使用されます(図1参照)。

図1:Pch MOSFETが使用される代表的な回路と用途例
こういった市場、用途で使われているPch MOSFETですが、昨今の産業機器や民生機器では電源の入力電圧により高い電圧、例えば24Vなどを使用するケースが増えていることから、より高いドレイン・ソース間の耐圧を持つものの需要が高まっています。
しかしながら、必要とされる高い耐圧を実現すると、オン抵抗が上昇するというトレードオフが生じます。
一般的に産業機器や民生機器向け電源のスイッチング周波数は比較的低いため、MOSFETに関わる損失は導通損失が支配的となり、MOSFETのオン抵抗が直接的に影響を及ぼします。これは、簡単に許容できないポイントです。耐圧を高めつつオン抵抗も低減するための手立ての1つとして、素子面積を大きくするアプローチがありますが、結果としてパッケージも含めたMOSFETのサイズも大きくなってしまいます。
そこで今回、高入力電圧に対応しつつ低いオン抵抗を実現するために、ローム第5世代微細プロセスを用いて耐圧-40V/-60VのPch MOSFETシリーズを新たに開発しました。
第5世代微細プロセスを用いたことで、ゲートトレンチ構造を従来よりも75%微細化でき、電流密度を高めることに成功しました。これによりA・Ron(単位面積あたりのオン抵抗)は業界トップレベルを実現しました。オン抵抗は従来品に比べ-40V耐圧品で62%、-60V耐圧品では52%削減することができました(図2参照)。

図2:第5世代-40V/-60V耐圧Pch MOSFET 従来品と新製品のA・Ron改善結果
例えば、第5世代新シリーズのRD3L07BAT(TO252/-60V/-70A/12.1mΩ)は素子サイズの最適化により、前シリーズに比べてドレイン電流(電流容量)は5倍、オン抵抗(VGS=10V Max)は85%低減を実現*しています。 *同耐圧従来品RD3L140SP(TO-252/-60V/-14A/84mΩ)との比較
アプリケーションは産業機器をはじめ、さらに広がることが予想されるため、パッケージのラインアップも拡充しました。従来から産業機器向けに使用されているTO-252、SOP8、TSMT8(3028 size)、TSMT6(2928 size)、より放熱性の高いシリーズとなる裏面放熱パッケージHSOP8(5060 size)、HSMT8(3333 size)、HUML2020L8(2020 size)と、幅広い機器、用途、実装条件に対応可能なパッケージを用意しました(図3参照。表内の各品番をクリックすると、該当製品詳細ページへリンクします。)

図3:拡充されたパッケージラインアップ
最後に、今後の新しい低耐圧MOSFETシリーズのリリース予定を少し。
産業機器用FANモーター用途、通信基地局・サーバー電源向けDC-DC、同期整流/ORing回路向け36V/48V/54V入力に対応する、次世代の微細プロセスを用いた40V/60V/100V/150V耐圧Nch パワーMOSFETシリーズのリリース予定があります。
また、より高い入力電圧に対応するロードスイッチ向け100V Pch DualパワーMOSFETシリーズや、Hブリッジ回路向けに±40/±60/±100V/Nch+Pch Dual パワーMOSFETシリーズもリリース予定です。
これらの素子が搭載されるパッケージに関しても、従来のパッケージに加えて、ワイヤレス構造を用いた大電流パッケージや、より小型のパッケージの展開も予定しています。
それでは、次回に続きます。どうぞご期待ください。
【資料ダウンロード】 シリコンパワーデバイスの特徴を活かしたアプリケーション事例
エンジニアコラム
-
回路設計とEMC設計の塩梅:はじめに
- 第1回 半導体概要(1) トランジスタ・ダイオード
- 第2回 半導体概要(2) 半導体集積回路(LSI・IC)
- 第3回 半導体概要(3) 半導体集積回路(LSI・IC)モジュール
- 第4回 製品仕様書(1) 半導体集積回路の製品仕様書
- 第5回 製品仕様書(2) 製品仕様書の読み方 保証値なのか参考値なのかを意識する
- 第6回 製品仕様書(3) 一般的なEMC評価指標例
- 第7回 評価回路・基板(1) 評価基板の使い方
- 第8回 評価回路・基板(2) 接地線(GND・グランド)の取り扱い
- 第9回 評価回路・基板(3) 電磁干渉(EMI)と電磁感受性(EMS)
- 第10回 Webサイト(1) 最新情報・主力製品紹介・製品仕様書
- 第11回 Webサイト(2) アプリケーションノートとデザインモデル
- 第12回 Webサイト(3) 設計サポートツール
- 第13回 EMC概要(1) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第14回 EMC概要(2) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第15回 EMC概要(3) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第16回 EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要
- 第17回 EMC計算法・EMCシミュレーション(2) 伝導エミッション(CE)の計算試行
- 第18回 EMC計算法・EMCシミュレーション(3) 放射エミッション(RE)の計算試行
- 第19回 EMC計算法・EMCシミュレーション(4) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第20回 EMC計算法・EMCシミュレーション(5) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第21回 EMC計算法・EMCシミュレーション(6) 放射イミュニティ(RI)の計算試行
- 第22回 EMC計算法・EMCシミュレーション(7) グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)
- 第23回 EMC計算法・EMCシミュレーション(8) 3次元(3D)プロット
- 第24回 EMC計算法・EMCシミュレーション(9) 計算法で用いるGNUツール
-
モーターの進化とその種類
- ブラシレスモーターのセンサ付とセンサレス駆動の特徴と使い分け
- ブラシレスモーターの位置センサの役割とその配置で注意すべきこと
- モータードライバーの絶対最大定格
- 実使用でのモータードライバーの出力電流
- モーターに最大の電流が流れる条件とは
- モータードライバー出力トランジスタの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力
- ブラシ付きDCモーターのトルク負荷、回転数、モーター電流の関係
- モーターのPWM駆動:PWM周期とモーターの電気的時定数の関係
- ブラシ付きDCモーターのPWM駆動:MOSFETと回生電流の理解
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その1
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その2
- ブラシ付きDCモーターを簡単に駆動する方法
- PWM駆動によるモーターの定電流動作
- ブラシ付きモーターPWM駆動の電流回生の方法と違い
-
EV(電気自動車)で重要なー「高効率モーター駆動」-基本
- 5人のエンジニアがミドルパワーデバイス新製品を語る:第1回 xEV向けインバータ回路のゲート駆動向けバイポーラトランジスタを開発