コラム
モータのPWM駆動:PWM周期とモータの電気的時定数の関係
ブラシ付きDCモータのPWM駆動に関して、「PWMの周期をモータの電気的時定数より十分に短い周期にすること」という注意事項があります。今回は、この「十分に短い周期」の具体的にどのくらいなのか考えてみたいと思います。
PWM駆動時のモータの電気的時定数に対して十分に短いPWM周期とは
最初に数値的な関連性を示します。電流リップル値はデューティ比m=0.5の時が一番大きくなり、「モータの電気的時定数 τ/PWM周期tpwm」と「電流リップル/平均電流」の関係は下表のようになります。
τ/tpwm | 平均電流 | 電流リップル(p-p) | 電流リップル/平均電流(%) |
---|---|---|---|
100 | 0.5×Ea/R | 0.0025×Ea/R | 0.5 |
50 | 0.5×Ea/R | 0.005×Ea/R | 1.0 |
25 | 0.5×Ea/R | 0.01×Ea/R | 2.0 |
10 | 0.5×Ea/R | 0.025×Ea/R | 5.0 |
5 | 0.5×Ea/R | 0.05×Ea/R | 10.0 |
この表から、リップルを5%以下に抑えるには、τ/tpwmは10倍以上必要であることがわかりますが、実際には必要な特性に合わせて決める必要があります。数学的には「モータの電気的時定数τに対してPWM周期tpwmが十分短い」とはtpwm/τ≈0と考えるため、τ/tpwm>100程度は必要と考えます。
これを数式によって求めてみます。最初に、ブラシ付きDCモータに電源電圧を印加した場合の等価回路を確認します。
Ea:電源電圧
Ia:モータ電流
R:モータの等価抵抗
L:モータの等価インダクタンス
Ec:モータの発電電圧
モータの電気的時定数とは、入力電圧に対する電流立ち上がりの特性を示す値で、ピークの63.2%に達するまでの時間になります。等価回路が示すように、モータは電気的には抵抗RとインダクタンスLの直列接続にモータの発電電圧Ecが加わった回路になります。モータの電気的時定数はτはL/Rで表されます。この値が小さいほど電流波形を速く立ち上げることができることを意味します。
モータ発電電圧Ec=0Vとして、モータ等価回路のインダクタンスLと抵抗Rに電圧Eaをステップ状に印加した場合の過渡電流iの関係式は、
L・(di/dt)+R・i=Ea ……(1)
となります。この微分方程式の一般解は、
i=Ea/R+A・exp(-R・t/L) A:初期値 ……(2)
と解けるため、t=0の時にi=i_0の初期値電流が流れているとすると、
A=i_0-Ea/R ……(3)
が求められ、
i=(Ea/R)・(1-exp(-R・t/L))+i_0・exp(-R・t/L) ……(4)
となります。
次に、モータ端子間をショートして電流回生する場合の等価回路を示します。
Ia:モータ電流
R:モータの等価抵抗
L:モータの等価インダクタンス
Ec:モータの発電電圧
この時の過渡電流iを求めます。iは(2)式においてEa=0Vとすればよく、
i=A・exp(-R・t/L) ……(5)
となり、t=0の時ブラシ付DCモータ PWM駆動過渡電流波形 τ/tpwm変化時にi_0の初期値電流が流れているとすると、
A=i_0 ……(6)
が求められ、
i=i_0・exp(-R・t/L) ……(7)
となります。
これらの式からPWM動作時のモータコイルに流れる過渡電流は、電圧印加時の電流をi_1とすると、
i_1=(Ea/R)・(1-exp(-m・tpwm/τ))+i_01・exp(-m・tpwm/τ) ……(8)
また、モータ端子間をショートして回生する時に流れる電流をi_2とすると、
i_2=i_02・exp(-(1-m)・tpwm/τ) ……(9)
の指数関数となります。
ただし、Ea:印加電圧、R:モータの等価抵抗値、m:オンデューティ比(=0~1)、tpwm:PWM周期、τ:モータの電気的時定数(= L/R)、i_01、i_02:各初期電流値、モータの発電電圧Ec=0Vです。
これらの過渡電流式より、モータの電気的時定数に対して十分短い周期のPWMを考えると、
-m・tpwm/τ≈0 や -(1-m)・tpwm/τ≈0
となり、
exp(-m・tpwm/τ)≈1 や exp(-(1-m)・tpwm/τ)≈1
となるため、
i_1≈i_01、i_2≈i_02
が成り立ち、常に一定の電流が流れます。
-m・tpwm/τ≈0 や -(1-m)・tpwm/τ≈0
が成り立つには、
τ/(m・tpwm)>100、τ/((1-m)・tpwm)>100
が数学的には必要になり、PWM周期tpwmで考えても、
τ/tpwm>100
程度は必要と考えられます。
電流リップルについては電流安定時に、i_2の初期値がi_1となり、i_2の結果がi_1の初期値i_0になるため以下の3つの式が成り立ちます。
i_1=(Ea/R)・(1-exp(-m・tpwm/τ))+i_0・exp(-m・tpwm/τ) ……(10)
i_2=i_1・exp(-(1-m)・tpwm/τ) ……(11)
i_2=i_0 ……(12)
i_1とi_2を消去するように式をまとめると、i_0とm、tpwm、τの関係式を求めることができ、パラメータを入れて計算すると各電流値を求めることができます。
これらの式を使い、モータ電流が0AからPWM駆動した場合の過渡電流波形の例を2つ示します。最初は、Ea=12V、R=6Ωにおいて、τ/tpwm=10、tpwm=100μsでmを変化させた時のグラフで、m=0.5のリップルが一番大きくなっています。
次のグラフはEa=12V、R=6Ωは同様で、m=0.5においてtpwmを変えることでτ/tpwmを変化させた例で、τ/tpwmが大きい方がリップルが小さくなっています。
実際には、電源接続時やモータ端子間ショート時には、ドライブ回路の出力MOSFETのオン抵抗や、回生電流がMOSFETの寄生ダイオードを経由して流れることなど考慮する必要があります。