エンジニアコラム
Motor Notes モーターのPWM駆動:PWM周期とモーターの電気的時定数の関係
2020.10.27
ブラシ付きDCモーターのPWM駆動に関して、「PWMの周期をモーターの電気的時定数より十分に短い周期にすること」という注意事項があります。今回は、この「十分に短い周期」の具体的にどのくらいなのか考えてみたいと思います。
PWM駆動時のモーターの電気的時定数に対して十分に短いPWM周期とは
最初に数値的な関連性を示します。電流リップル値はデューティ比m=0.5の時が一番大きくなり、「モーターの電気的時定数 τ/PWM周期tpwm」と「電流リップル/平均電流」の関係は下表のようになります。
| τ/tpwm | 平均電流 | 電流リップル(p-p) | 電流リップル/平均電流(%) |
|---|---|---|---|
| 100 | 0.5×Ea/R | 0.0025×Ea/R | 0.5 |
| 50 | 0.5×Ea/R | 0.005×Ea/R | 1.0 |
| 25 | 0.5×Ea/R | 0.01×Ea/R | 2.0 |
| 10 | 0.5×Ea/R | 0.025×Ea/R | 5.0 |
| 5 | 0.5×Ea/R | 0.05×Ea/R | 10.0 |
この表から、リップルを5%以下に抑えるには、τ/tpwmは10倍以上必要であることがわかりますが、実際には必要な特性に合わせて決める必要があります。数学的には「モーターの電気的時定数τに対してPWM周期tpwmが十分短い」とはtpwm/τ≈0と考えるため、τ/tpwm>100程度は必要と考えます。
これを数式によって求めてみます。最初に、ブラシ付きDCモーターに電源電圧を印加した場合の等価回路を確認します。

Ea:電源電圧
Ia:モーター電流
R:モーターの等価抵抗
L:モーターの等価インダクタンス
Ec:モーターの発電電圧
モーターの電気的時定数とは、入力電圧に対する電流立ち上がりの特性を示す値で、ピークの63.2%に達するまでの時間になります。等価回路が示すように、モーターは電気的には抵抗RとインダクタンスLの直列接続にモーターの発電電圧Ecが加わった回路になります。モーターの電気的時定数はτはL/Rで表されます。この値が小さいほど電流波形を速く立ち上げることができることを意味します。
モーター発電電圧Ec=0Vとして、モーター等価回路のインダクタンスLと抵抗Rに電圧Eaをステップ状に印加した場合の過渡電流iの関係式は、
L・(di/dt)+R・i=Ea ……(1)
となります。この微分方程式の一般解は、
i=Ea/R+A・exp(-R・t/L) A:初期値 ……(2)
と解けるため、t=0の時にi=i_0の初期値電流が流れているとすると、
A=i_0-Ea/R ……(3)
が求められ、
i=(Ea/R)・(1-exp(-R・t/L))+i_0・exp(-R・t/L) ……(4)
となります。
次に、モーター端子間をショートして電流回生する場合の等価回路を示します。

Ia:モーター電流
R:モーターの等価抵抗
L:モーターの等価インダクタンス
Ec:モーターの発電電圧
この時の過渡電流iを求めます。iは(2)式においてEa=0Vとすればよく、
i=A・exp(-R・t/L) ……(5)
となり、t=0の時ブラシ付DCモーター PWM駆動過渡電流波形 τ/tpwm変化時にi_0の初期値電流が流れているとすると、
A=i_0 ……(6)
が求められ、
i=i_0・exp(-R・t/L) ……(7)
となります。
これらの式からPWM動作時のモーターコイルに流れる過渡電流は、電圧印加時の電流をi_1とすると、
i_1=(Ea/R)・(1-exp(-m・tpwm/τ))+i_01・exp(-m・tpwm/τ) ……(8)
また、モーター端子間をショートして回生する時に流れる電流をi_2とすると、
i_2=i_02・exp(-(1-m)・tpwm/τ) ……(9)
の指数関数となります。
ただし、Ea:印加電圧、R:モーターの等価抵抗値、m:オンデューティ比(=0~1)、tpwm:PWM周期、τ:モーターの電気的時定数(= L/R)、i_01、i_02:各初期電流値、モーターの発電電圧Ec=0Vです。
これらの過渡電流式より、モーターの電気的時定数に対して十分短い周期のPWMを考えると、
-m・tpwm/τ≈0 や -(1-m)・tpwm/τ≈0
となり、
exp(-m・tpwm/τ)≈1 や exp(-(1-m)・tpwm/τ)≈1
となるため、
i_1≈i_01、i_2≈i_02
が成り立ち、常に一定の電流が流れます。
-m・tpwm/τ≈0 や -(1-m)・tpwm/τ≈0
が成り立つには、
τ/(m・tpwm)>100、τ/((1-m)・tpwm)>100
が数学的には必要になり、PWM周期tpwmで考えても、
τ/tpwm>100
程度は必要と考えられます。
電流リップルについては電流安定時に、i_2の初期値がi_1となり、i_2の結果がi_1の初期値i_0になるため以下の3つの式が成り立ちます。
i_1=(Ea/R)・(1-exp(-m・tpwm/τ))+i_0・exp(-m・tpwm/τ) ……(10)
i_2=i_1・exp(-(1-m)・tpwm/τ) ……(11)
i_2=i_0 ……(12)
i_1とi_2を消去するように式をまとめると、i_0とm、tpwm、τの関係式を求めることができ、パラメータを入れて計算すると各電流値を求めることができます。
これらの式を使い、モーター電流が0AからPWM駆動した場合の過渡電流波形の例を2つ示します。最初は、Ea=12V、R=6Ωにおいて、τ/tpwm=10、tpwm=100μsでmを変化させた時のグラフで、m=0.5のリップルが一番大きくなっています。

次のグラフはEa=12V、R=6Ωは同様で、m=0.5においてtpwmを変えることでτ/tpwmを変化させた例で、τ/tpwmが大きい方がリップルが小さくなっています。

実際には、電源接続時やモーター端子間ショート時には、ドライブ回路の出力MOSFETのオン抵抗や、回生電流がMOSFETの寄生ダイオードを経由して流れることなど考慮する必要があります。
【資料ダウンロード】 ブラシ付きDCモーターと駆動方法の基礎
ブラシ付きDCモーターは最も汎用的なモーターで、非常に多くのアプリケーションに利用されています。このハンドブックでは、ブラシ付きDCモーターの基礎として、構造、動作原理、特性、駆動方法を解説しています。
エンジニアコラム
-
回路設計とEMC設計の塩梅:はじめに
- 第1回 半導体概要(1) トランジスタ・ダイオード
- 第2回 半導体概要(2) 半導体集積回路(LSI・IC)
- 第3回 半導体概要(3) 半導体集積回路(LSI・IC)モジュール
- 第4回 製品仕様書(1) 半導体集積回路の製品仕様書
- 第5回 製品仕様書(2) 製品仕様書の読み方 保証値なのか参考値なのかを意識する
- 第6回 製品仕様書(3) 一般的なEMC評価指標例
- 第7回 評価回路・基板(1) 評価基板の使い方
- 第8回 評価回路・基板(2) 接地線(GND・グランド)の取り扱い
- 第9回 評価回路・基板(3) 電磁干渉(EMI)と電磁感受性(EMS)
- 第10回 Webサイト(1) 最新情報・主力製品紹介・製品仕様書
- 第11回 Webサイト(2) アプリケーションノートとデザインモデル
- 第12回 Webサイト(3) 設計サポートツール
- 第13回 EMC概要(1) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第14回 EMC概要(2) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第15回 EMC概要(3) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第16回 EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要
- 第17回 EMC計算法・EMCシミュレーション(2) 伝導エミッション(CE)の計算試行
- 第18回 EMC計算法・EMCシミュレーション(3) 放射エミッション(RE)の計算試行
- 第19回 EMC計算法・EMCシミュレーション(4) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第20回 EMC計算法・EMCシミュレーション(5) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第21回 EMC計算法・EMCシミュレーション(6) 放射イミュニティ(RI)の計算試行
- 第22回 EMC計算法・EMCシミュレーション(7) グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)
- 第23回 EMC計算法・EMCシミュレーション(8) 3次元(3D)プロット
- 第24回 EMC計算法・EMCシミュレーション(9) 計算法で用いるGNUツール
-
モーターの進化とその種類
- ブラシレスモーターのセンサ付とセンサレス駆動の特徴と使い分け
- ブラシレスモーターの位置センサの役割とその配置で注意すべきこと
- モータードライバーの絶対最大定格
- 実使用でのモータードライバーの出力電流
- モーターに最大の電流が流れる条件とは
- モータードライバー出力トランジスタの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力
- ブラシ付きDCモーターのトルク負荷、回転数、モーター電流の関係
- モーターのPWM駆動:PWM周期とモーターの電気的時定数の関係
- ブラシ付きDCモーターのPWM駆動:MOSFETと回生電流の理解
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その1
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その2
- ブラシ付きDCモーターを簡単に駆動する方法
- PWM駆動によるモーターの定電流動作
- ブラシ付きモーターPWM駆動の電流回生の方法と違い
-
EV(電気自動車)で重要なー「高効率モーター駆動」-基本
- 5人のエンジニアがミドルパワーデバイス新製品を語る:第1回 xEV向けインバータ回路のゲート駆動向けバイポーラトランジスタを開発