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エンジニアコラム

第16回 EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要

まずはEMC計算法の概要を知ろう

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こんにちは! ロームの稲垣です。

今回、第16回からは、電磁両立性(EMC)の計算法・シミュレーションについてお話しして行こうと思います。

EMCと言えば、EMC国際規格に適合するか否かで、その半導体集積回路(LSI)の完成度が判定され、製品採用の絶対条件と言っても過言ではありません。そのため、EMCに関わるエンジニアは、試作品や量産品を測定する為のEMCサイトや電波暗室での業務が主となっています。弊社でも測定に関しては、「測定正確性と測定再現性」を常に意識して業務にあたる様に指示しています。測定正確性は、文字通り測定精度を高めて真値に近い値の測定を追求することで、環境構築や測定技術を必要とします。一方、測定再現性は同じサンプルを何回測定しても、同じ測定値が得られることを意味します。EMCの測定値はその最大値と最小値の幅がとても大きいので(例えば60~100dB)、半導体集積回路(LSI)の回路設計時程の精度(例えば0.1dB)は必要としないのも特徴です。ですが共に大切な指標で、これらは後述するEMC計算法にも大きく関連します。

EMCに関する計算法に関しては、多くのEDAベンダから電磁界解析ツールが販売され、EMCエンジニアの間でも様々な用途で使われています。最も多いのがプリント基板(PCB)のシミュレーションだと思います。最近のプリント基板(PCB)は多層化が進み、EMC不具合を無くす為の試作回数や試作時間の削減にも貢献しています。もし、EMC国際規格の適合判定シミュレーションができれば、LSIサプライヤにとっては大変便利なのですが、ほとんど世に出ていない状況です。

そこで、EMCの計算やシミュレーションに関する概念が、世の中にどのくらいあるのか少し調べてみました。国際電気標準会議(IEC)では、半導体集積回路(LSI)のEMCモデルが定義されていて、以下が発行されています。ちなみに、Part 5は現状未提案になっています。

IEC 62433規格

Part 1 概要
Part 2 ICEM-CE 伝導エミッション・モデル
Part 3 ICEM-RE 放射エミッション・モデル
Part 4 ICIM-CI 伝導イミュニティ・モデル
Part 6 ICIM-CPI 伝導尖頭波イミュニティ・モデル

これらの規格の中で大切な定義は、次の2点になります。非常に重要且つ基本的な概念で、伝導でも放射でも利用できます。

IAモデル (Internal Activity Model) ・・・ LSIの電磁干渉(EMI)モデル
IBモデル (Immunity Behavior Model) ・・・ LSIの誤動作閾値(EMS)モデル

計算法には、いくつかの有効な手法があります。データ同化(Data Assimilation)は、実際の測定値をモデルに入力して精度の高い結果を得る技術で、天気予報や地震観測で実用化されています。先日のニュースでは、理化学研究所がこのデータ同化技術を使って、新型コロナ・ウイルスの流行感染状況の計算に着手する事が報道されていました。測定だけ、シミュレーションだけという従来の考え方から一歩進んだ、測定値と計算値の融合と言えます。

更に、雑音除去(Noise Reduction)と言う手法も大変有効です。測定値も計算値もEMC現象ではデータが膨大になり各周波数に対するそのままの値を使うと、期待した結果を中々上手く得る事ができません。そこでこの雑音除去という手法が開発されました。と言っても中身は単純で、測定値と計算値の包絡線(エンベロープ)検波を行うもので、これによって状況は一変します。

これらが、EMC計算・EMCシミュレーションをする為の概念になります。後は回路解析、電磁界解析、数値解析を駆使して(シェル・)スクリプトを組めば、市販されていないEMC国際規格の適合判定が試行できそうです。ちなみに、計算試行では、各解析を次の様に使い分けています。

伝導エミッション/伝導イミュニティ: 回路解析+数値解析
放射エミッション/放射イミュニティ: 回路解析+電磁界解析+数値解析

参考までに、現在のところの電磁両立性(EMC)の計算試行例は以下のようになっています。主役は半導体集積回路(LSI)ですので、製品セットやシステムまでは対応出来ていませんが、少しずつ判定できるEMC国際規格を増やす様に研究・開発・試行が進んでいます。次回からは、これらの中から代表的なものを順次御紹介して行こうと思います。

分類 電磁干渉(エミッション・EMI)
LSI 伝導 IEC 61967-4規格 1Ω/150Ω法
伝導 スペクトラム拡散
民生 伝導 CISPR32(旧CISPR22)規格 雑音端子電圧
放射 CISPR32(旧CISPR22)規格 3m法/10m法
車載 伝導 CISPR25規格 電圧法/電流プローブ法
放射 CISPR25規格 ALSE法
分類 電磁感受性(イミュニティ・EMS)
LSI 伝導 IEC 62132-4規格 DPI法
民生 伝導 IEC 61000-4-2規格 静電気放電モデル
放射 IEC 61000-4-3規格 放射無線周波数電磁界イミュニティ
車載 伝導 ISO 7637-2/-3規格・ISO 16750-2規格(車載蓄電池モデル)
伝導 ISO 11452-4規格 HE法(BCI法・TWC法)
放射 ISO 11452-2規格 ALSE法
放射 ISO 11452-9規格 可搬型送信機

以上ですが、今回から話が少々難しくなったと感じた方もいらっしゃると思います。正直なところ、今後の話に関してはこのコラムの紙面だけでは詳細を説明しきれない場合があることを懸念しております。半導体集積回路(LSI)の設計に携わっている方やこの分野に興味を持たれた方には、下記の書籍を参照しながら、このコラムを読んで頂ければと思います。

「LSIのEMC設計」,科学情報出版株式会社,2018年2月初版発行,ISBN978-4-904774-68-7.

半導体集積回路(LSI)の電磁両立性(EMC)設計に関する出版物は非常に少ない状況にあります。本書は数式をなるべく使わずに、現象の俯瞰や概念の把握ができる様にわかりやすく纏められています。EMCシミュレーションに関しても、基本的なところから書かれていますので、当コラムの補足資料として活用頂ければ幸いです。また、今後このコラムで取り上げた内容を補足するこの書籍の参照ページを、以下の様にコラム末尾に記載して行こうと思います。

◆IEC 62433規格の概要説明:第5章現象別半導体集積回路の電磁両立性検証(1)p.124~
◆EMCシミュレーションの概要説明:第6章現象別半導体集積回路の電磁両立性検証(2)p.139~

御一読頂きまして、どうもありがとうございます。