DCDCコンバータ|応用編

事例2 : 定電流負荷による起動トラブル

2022.04.26

この記事のポイント

・フォールドバック電流制限回路を搭載したリニアレギュレータは、起動前に定電流負荷が与えられている場合に起動しないトラブルが発生する可能性がある。

・このトラブルには、過電流保護回路に垂下型の特性を持ったリニアレギュレータを使用することで対処可能。

・定電流負荷によりICの出力ピンとグラウンド間にある静電破壊保護ダイオードや寄生ダイオードに電流が流れると、ICの劣化や破壊の恐れがあるので、出力ピンとグラウンド間にショットキーバリアダイオードを接続して保護する。

事例2:定電流負荷による起動トラブル

フォールドバック電流制限回路を搭載したリニアレギュレータICは、ICが起動する前に出力に定電流負荷が与えられていると起動しない場合があります。

通常負荷(抵抗・コンデンサ)の場合の起動シーケンス

図1は、電流フォールドバック(フの字)特性の例です。フの字特性とも呼ばれるのは、その電流-電圧特性がカタカナの「フ」に似ているからです。ICの出力が過負荷状態になり出力電流が制限値に達すると、出力電流制限を直線的に低下させることにより出力電圧を低下させ、ICの電力消費を制限内に収めることで保護を行います。

フォールドバック電流制限機能は起動時にも機能するため、ICの起動はそのフォールドバック特性に従うことになります。はじめに、出力の負荷が通常の抵抗やコンデンサの場合の起動シーケンスを、図1と図2を使って説明します。図2はレギュレータ出力に100μFのコンデンサと、5V時に500mAの出力(負荷)電流が流れる抵抗負荷が接続された回路の起動波形です。各図の?~?は同じ時点を意味しています。

リニアレギュレータICの電流フォールドバック特性の例

図1. 電流フォールドバック特性の例

リニアレギュレータICの起動波形例

図2. 起動波形例。
VCC=12V、VOUT=5V、COUT=100μF、IOUT=500mA

VCCが供給される前の時点では、出力電圧と出力電流はともにゼロです。VCCが供給された?の時点からICは起動を開始し、出力が立ち上がり始めます。すると、出力には100μFの出力コンデンサが接続されているので、その充電のために急激に出力電流が増加します。これは突入電流と呼ばれており、制限をしないと一瞬に可能な限りの大電流が流れようとします。この例では図が示すように、300mA程度に制限されています。

その後、出力電流はフォールドバック曲線に沿って線形に増加しながら出力コンデンサを徐々に充電し、それに従いて出力電圧も同様にフォールドバック曲線に沿って上昇し、?点、?点、?点と推移します。

?の時点で出力コンデンサの充電がほぼ終了し、出力電圧は設定値に至り、出力電流も定常状態に向かいます。

?の時点では出力が完全に立ち上がり安定化状態にあり、出力電流は通常負荷の500mAになっています。

このようにフォールドバック電流制限回路持ったリニアレギュレータは、ゼロ点からスタートしてフォールドバック曲線に沿う形で起動します。負荷が抵抗やコンデンサの場合は、起動時に電流制限を受けることがありますが、電流が出力へ供給されている限り出力電圧は必ず立ち上がります。

定電流負荷の場合

次に、定電流負荷の場合を説明します。ICが起動する前に出力に定電流負荷が与えられていると、ICの出力ピンとグラウンド間にあるダイオードに電流が流れ、順方向電圧が発生するため、出力ピンがマイナス1VF(約-0.7V)になります。このダイオードは、ICに作りこまれている静電破壊保護ダイオードや、構造上存在する寄生ダイオードです(図3)。

リニアレギュレータICの出力に起動前に定電流負荷が与えられていると、内部ダイオードにVFが生じ、出力ピンが-1VFになる

図3. 起動前に定電流負荷が与えられていると、内部ダイオードにVFが生じ、出力ピンが-1VFになる

リニアレギュレータIC出力に定電流負荷が起動前に与えられている場合

図4. 定電流負荷が起動前に与えられている場合

例として、定電流負荷を500mAとします。図4の?点はICが起動を開始するポイントで、先に説明したように定電流負荷のために出力電圧はマイナスになっています。ICが起動すると出力電流が流れ始めますが、出力電圧が-0.7Vになっているため0V時よりも供給電流が減り、この例では200mA程度になります。負荷が500mA定電流のため200mAの供給では出力電圧は上昇できず、?点でラッチ状態になり出力が立ち上がらない起動トラブルになります。

ICが先に起動を完了して出力に設定電圧が出ている状態で定電流負荷を接続する場合は、問題なく動作を継続します。これはICがすでに定常状態になっており、この例では500mAの電流を十分に供給できるからです。ただし、一旦出力が短絡する(0Vになる)と図4の?の時点に戻ることになるので、前述した定電流負荷が起動前に与えられている状態になり、同様に起動トラブルが発生します。

このトラブルの対策は、定電流負荷の値よりも起動時にICが供給できる出力電流値が大きいICを選ぶことになります。

しかしながら、フォールドバック電流制限回路を搭載したリニアレギュレータは、その特性から出力0V時に供給できる電流値が小さく設定されており、多くの場合その電流値も保証されていません。したがって、定電流負荷が起動前に与えられる条件で使用する場合は、過電流保護回路に垂下型の特性を持ったリニアレギュレータを使用することで対処できます。垂下型の特性は図5のように、出力0V時に供給できる電流値が最大出力電流に近いので、定電流負荷があっても確実な起動が可能です。

リニアレギュレータIC過電流保護回路の垂下型特性例

図5. 過電流保護回路の垂下型特性例

リニアレギュレータIC出力端子の逆電圧保護

図6. 出力端子の逆電圧保護

起動トラブルへの対処に直接関係する事柄ではありませんが、定電流負荷によりICの出力ピンとグラウンド間にある静電破壊保護ダイオードや寄生ダイオードに電流が流れると、素子が劣化したり破壊したりする可能性があります。これを防止するために、図6が示すように出力ピンとグラウンド間にショットキーバリアダイオードを接続してください。

【資料ダウンロード】リニアレギュレータの基礎

リニアレギュレータの基礎として、動作原理、分類、回路構成による特徴、長所・短所を理解するためのハンドブックです。加えて、リニアレギュレータの代表的な仕様(規格値)と、効率と熱計算に関しても解説しています。

技術資料ダウンロード

リニアレギュレータの基礎

リニアレギュレータの基礎として、動作原理、分類、回路構成による特徴、長所・短所を理解するためのハンドブックです。加えて、リニアレギュレータの代表的な仕様(規格値)と、効率と熱計算に関しても解説しています。