エンジニアコラム
Motor Notes ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その1
2020.02.25
今回は、モータードライバーの消費電力について考えてみたいと思います。
モータードライバーの消費電力計算について、下記でよいかという質問を受けたことがあります。
(ICの回路電流+モーターに流れる電流)×電源電圧
一見それらしいですが、正しくはありません。「ICの回路電流×電源電圧」は正しいですが、「モーターに流れる電流×電源電圧」はモーターの消費電力も含んでしまうので、正しくはモータードライバーの出力消費電力を求めて、ICの回路消費電力と合算することになります。
出力の消費電力は「損失電圧×出力電流」で計算します。モータードライバーの出力段となるHブリッジでの算出は後述しますが、理解のためのシンプルな例として、リニアレギュレータICの消費電力計算式を示します。
リニアレギュレータICの消費電力=自己消費電力(Vin×Iin)+入出力電圧差(Vin-Vout)×出力電流(IO)
この式でIinとしたのは、データシートではIccやIqなどと記述されている電流で、Vin端子からIC内部の出力電圧安定化制御回路に流れ消費される電流です。続く項、「入出力電圧差×出力電流」は出力の損失(消費)電力になります。
例えば、オペアンプICで出力電流がミリアンペアに至らないような場合は、電源電圧×電源電流で計算してしまってもその誤差に大きなインパクトはありませんが、電源ICやモータードライバーICのような比較的大きな出力電流を供給するICの場合は、「電源電圧×出力電流」で計算してしまうと大きな誤差が生じます。
少し回り道をしましたが、モータードライバーICの消費電力計算も同じ考え方になります。
ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法
それでは、ブラシ付きモータードライバーICを例にして、消費電力の計算式の説明をして行きます。ブラシ付きモーターの代表的な駆動方法として定電圧駆動とPWM駆動がありますので、最初は定電圧駆動について説明します。
①定電圧駆動時の消費電力計算
定電圧駆動の場合のモータードライバーICの消費電力Pcは、基本的に以下の式で求めることができます。
Pc=小信号部回路電流×電源電圧+モーターに流れる電流×(ハイサイド出力間電圧+ローサイド出力間電圧)
下図は、電力消費がどの部分でどう生じるかをイメージするための模式図です。

「小信号部」と示してある部分はモータードライバーICの制御回路で、この回路電流をIcc、電源電圧をVcc、モーターに流れる電流をIOとします。また、Q1~4のMOSFETが出力段のHブリッジ回路です。
小信号部回路の消費電力は、単純にIcc×Vccで求められます。
HブリッジはハイサイドQ1とローサイドQ4がオンしており、IOはVccからQ1を通じてモーターに流れQ4を介してGNDに流れます。このときのHブリッジの消費(損失)電力を求めます。MOSFETのオン状態は等価的に抵抗器として考えることでき、その抵抗値はMOSFETのオン抵抗Ronとなります。ハイサイドQ1のオン抵抗をRonH、ローサイドQ4のオン抵抗をRonLとすると、各出力間電圧は以下の式で表すことができます。
ハイサイド出力間電圧VH=IO×RonH
ローサイド出力間電圧VL=IO×RonL
これらから消費電力Pcは、以下の式で計算できます。
Pc=Icc×Vcc+Io×(VH+VL)=Icc×Vcc+IO2×(RonH+RonL)
実際のVH、VLを測る方法が実践的ですが、MOSFETのRonはデータシートに記載されていますので、最大値を使って計算すればワーストケースの見積もりが可能になります。
続く
【資料ダウンロード】 ブラシ付きDCモーターと駆動方法の基礎
ブラシ付きDCモーターは最も汎用的なモーターで、非常に多くのアプリケーションに利用されています。このハンドブックでは、ブラシ付きDCモーターの基礎として、構造、動作原理、特性、駆動方法を解説しています。
エンジニアコラム
-
回路設計とEMC設計の塩梅:はじめに
- 第1回 半導体概要(1) トランジスタ・ダイオード
- 第2回 半導体概要(2) 半導体集積回路(LSI・IC)
- 第3回 半導体概要(3) 半導体集積回路(LSI・IC)モジュール
- 第4回 製品仕様書(1) 半導体集積回路の製品仕様書
- 第5回 製品仕様書(2) 製品仕様書の読み方 保証値なのか参考値なのかを意識する
- 第6回 製品仕様書(3) 一般的なEMC評価指標例
- 第7回 評価回路・基板(1) 評価基板の使い方
- 第8回 評価回路・基板(2) 接地線(GND・グランド)の取り扱い
- 第9回 評価回路・基板(3) 電磁干渉(EMI)と電磁感受性(EMS)
- 第10回 Webサイト(1) 最新情報・主力製品紹介・製品仕様書
- 第11回 Webサイト(2) アプリケーションノートとデザインモデル
- 第12回 Webサイト(3) 設計サポートツール
- 第13回 EMC概要(1) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第14回 EMC概要(2) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第15回 EMC概要(3) 電磁両立性(EMC)とは何か?
- 第16回 EMC計算法・EMCシミュレーション(1) 計算法概要
- 第17回 EMC計算法・EMCシミュレーション(2) 伝導エミッション(CE)の計算試行
- 第18回 EMC計算法・EMCシミュレーション(3) 放射エミッション(RE)の計算試行
- 第19回 EMC計算法・EMCシミュレーション(4) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第20回 EMC計算法・EMCシミュレーション(5) 伝導イミュニティ(CI)の計算試行
- 第21回 EMC計算法・EMCシミュレーション(6) 放射イミュニティ(RI)の計算試行
- 第22回 EMC計算法・EMCシミュレーション(7) グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)
- 第23回 EMC計算法・EMCシミュレーション(8) 3次元(3D)プロット
- 第24回 EMC計算法・EMCシミュレーション(9) 計算法で用いるGNUツール
-
モーターの進化とその種類
- ブラシレスモーターのセンサ付とセンサレス駆動の特徴と使い分け
- ブラシレスモーターの位置センサの役割とその配置で注意すべきこと
- モータードライバーの絶対最大定格
- 実使用でのモータードライバーの出力電流
- モーターに最大の電流が流れる条件とは
- モータードライバー出力トランジスタの寄生ダイオードで電流回生した時の消費電力
- ブラシ付きDCモーターのトルク負荷、回転数、モーター電流の関係
- モーターのPWM駆動:PWM周期とモーターの電気的時定数の関係
- ブラシ付きDCモーターのPWM駆動:MOSFETと回生電流の理解
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その1
- ブラシ付きモータードライバーの消費電力の計算方法 その2
- ブラシ付きDCモーターを簡単に駆動する方法
- PWM駆動によるモーターの定電流動作
- ブラシ付きモーターPWM駆動の電流回生の方法と違い
-
EV(電気自動車)で重要なー「高効率モーター駆動」-基本
- 5人のエンジニアがミドルパワーデバイス新製品を語る:第1回 xEV向けインバータ回路のゲート駆動向けバイポーラトランジスタを開発