DC-DCコンバータ|基礎編
昇圧電源の出力でのスイッチングノイズの低減 昇圧型DC-DCコンバータにおける高周波ノイズの発生原因
2023.08.17
この記事のポイント
・昇圧型DC-DCコンバータでは出力に高速変動するパルス状電流が流れ込みリンギングを発生し高周波ノイズの原因となる
・ローサイドスイッチオフ時のリンギングのエネルギー源はハイサイドスイッチのターンオン遅延と出力ループのインダクタンスによりスイッチノードの電圧が出力電圧より高い電圧まで上昇した電位差から供給される
・ローサイドスイッチオフ時のリンギングはローサイドスイッチのCOSSと出力ループのインダクタンス成分によるLC共振で発生する
・ローサイドスイッチオン時のリンギングのエネルギー源はハイサイドスイッチのリカバリ電流とハイサイドスイッチの容量成分への充電電流により供給される
・ローサイドスイッチオン時のリンギングはハイサイドスイッチの容量成分と出力ループのインダクタンス成分によるLC共振で発生する
1つ目の「昇圧型DC-DCコンバータにおける高周波ノイズの発生原因」についてです。
- 昇圧型DC-DCコンバータにおける高周波ノイズの発生原因
- 昇圧型DC-DCコンバータで発生する高周波ノイズの低減方法
昇圧電源の出力で発生するスイッチング周波数よりはるかに高い高周波ノイズの原因を「昇圧型DC-DCコンバータの動作」、「出力コンデンサと配線の持つインダクタンス成分」、「ローサイドスイッチの出力容量とリンギングの発生」、「ローサイドスイッチのターンON時の動作」で説明します。
昇圧型DC-DCコンバータの動作
昇圧型DC-DCコンバータではローサイドスイッチのオン時にインダクタ電流を増加させてエネルギーを蓄積して、ローサイドスイッチのオフ時には蓄積エネルギーの解放によりインダクタに逆起電力による高電圧を発生させることで入力より高い出力電圧を作っています。このスイッチング動作時の電圧と電流の高速変動により高周波振動が発生し、高周波ノイズとなり出力ラインから伝搬、放射されてトラブルの原因となります。

まずはローサイドスイッチがオンからオフへ移行時の詳細な動作を説明します。ローサイドスイッチのFETがフルオンしている状態ではドレインとソース間の抵抗はRDSONの抵抗値となっており、ドレインの電圧は(RDSON×インダクタ電流)となっています。この時点からFETのゲート駆動をオフに移行するとドレインとソース間の抵抗値が上昇し、ドレインの電圧も上昇を開始します。ローサイドスイッチがオフになると、ドレイン-ソース間に容量成分COSSが発生し、インダクタ電流の一部はCOSSの充電に使用されます。ドレインとソース間の抵抗成分に流れる電流による導通損とCOSSへの充電電荷量によりエネルギーの一部を失いながら、ドレイン電圧は上昇をつづけます。

スイッチノードの電圧VSWが出力電圧より高くなるとハイサイドスイッチの整流ダイオードが順方向にバイアスされます。順方向バイアスの電圧が整流ダイオードのVFより高くなっても整流ダイオードのターンON遅延により電流が流れ始めず、ドレインの電圧は出力電圧+VFより高い電圧まで上昇します。数nsのターンON遅延ののち整流ダイオードが導通状態となり、インダクタ電流が出力コンデンサへの充電を開始します。
出力コンデンサと配線の持つインダクタンス成分
整流ダイオードのターンオン遅延により出力電圧より高い電位まで上昇したVSWが出力コンデンサに印加され、出力コンデンサは大きな電位差により急速充電が開始されます。このとき、出力コンデンサは直前まで負荷へ放電による電流供給を行っていましたが、以降インダクタ電流による充電が行われることになります。放電から充電へとコンデンサに流れる電流はns単位の速度で逆方向となります。コンデンサの持つインダクタンス成分ESLは数nH~数10nHですが、充放電電流の変動値であるA単位のΔIとns単位の変化速度ΔTによるΔV=ΔI×L/ΔTにより、ΔTの時間に逆起電圧ΔVが発生して出力コンデンサでも高い電圧が発生します。このために出力コンデンサでも整流ダイオードのターンオン直後にスパイク状の高電圧が発生します。

ローサイドスイッチの出力容量とリンギングの発生
出力コンデンサでも発生したスパイク状の高電圧まで充電されたCOSSの蓄積エネルギーが放電して出力コンデンサに流れ込み、インダクタ成分ESLに磁気エネルギーとして蓄積されます。放電によりCOSSの電圧がVOUTの電位まで低下した時点で電位差がなくなるのでESLへの磁気エネルギーの増加はなくなりますが、ここまでにESLに蓄積された磁気エネルギーにより定電流状態となり、COSSからさらに電荷を引き抜き、COSSの電圧はVOUTより低下していきます。COSSの電圧低下によりESLの磁気エネルギーは減少し、磁気エネルギーが0になった時点でCOSSからの放電は止まります。この時点でCOSSの電位はVOUTより低下しており今度は出力コンデンサからローサイドスイッチのCOSSに逆流するかたちで電流が流れて、COSSを充電し、同時にESLへ先ほどと逆方向の磁気エネルギーの蓄積が始まります。この後、ローサイドスイッチのCOSSと出力コンデンサのESL間でのエネルギーの移動が繰り返され電圧と電流の行き来による振動状態が発生します。厳密にはインダクタンス成分はESLとこの充放電電流の流れるループの持つインダクタンス成分の合計のL値とローサイドスイッチのCOSS によるLC共振振動であり共振周波数FZは FZ=1/2π√(L×COSS) となります。

この共振周波数はインダクタンス成分の合計が数nH、COSSの容量が数10~数100pFなので数10~数100MHzの周波数領域となります。スイッチノードと出力コンデンサで発生するリンギングによる高周波ノイズとなり、電源出力ラインを伝搬して負荷回路に誤動作などを引き起こす原因となります。
ローサイドスイッチのターンON時の動作
ローサイドスイッチがオンする直前、ローサイドスイッチのドレインには出力電圧+VFの電圧が印加されておりハイサイドスイッチである整流ダイオードにはインダクタ電流が流れている状態です。ここからローサイドスイッチがオンに移行すると出力へ流れていたインダクタ電流はハイサイドスイッチからローサイドスイッチに移動します。VSW電圧はGND電位へと低下を開始し、ハイサイドスイッチである整流ダイオードは逆バイアス状態となります。直前までダイオードに流れていた電流によりダイードの接合部に自由電子と正孔があるために、逆バイアス状態になっても即時に遮断状態とはならず短時間だけ逆流電流が流れます。これをリバースリカバリ電流と言いますが、この電流により出力ループに、高速電流変化をともなう逆流電流が流れます。

リバースリカバリ電流が終了するとダイオードは逆バイアス状態による遮断状態となりますがPN接合部の空乏層により、電気的には小容量のコンデンサとなります。ハイサイドスイッチがFETによる同期整流方式の場合ではFETは寄生ダイオードをもち、寄生ダイオードによる空乏層+ソースドレイン間の物理構造+ゲート容量による容量COSSがあります。リバースリカバリ電流につづいてこれらのコンデンサへの充電電流が流れます。ハイサイドスイッチのコンデンサと出力ループが持つインダクタンス成分によるLC共振回路に逆流した電流をエネルギー源とした高周波ノイズが発生します。
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